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2009年12月29日
箱(後編)


 その夜、洋子は寝付けないでいた。
原因ははっきりしている。
家を建てて10年、そろそろ現れるころだと思っていたが・・・
この前2匹を仕留めたが、必ず生き残りがいる─
確たる殺意を胸に抱き、目を閉じたその瞬間、はっとなって飛び起きた。
背筋が凍る、忘れもしないあの音が聞こえたのだ。
丸めた雑誌を手に、すり足で台所に近づく。
昔は剣道でならした腕、一撃で仕留める自信があった。
暗闇に目が慣れた頃、
箱にいた黒い影を捉え、会心の一撃を見舞った。

 タクヤはある決意を抱いていた。
心臓の鼓動が頭に響くのが分かるが、驚くぐらい冷静に行動していた。
自分のやれることはこれしかない─
迷うことなく、一歩を踏み出した。
足にからみつき、足があがらない。分かっていたことだ。
タクヤは鋭い歯で自分の足をかみちぎった。
激痛が走る。しかし、次の一歩を踏み出すのに迷いはなかった。
タカシの前にたどりつくころには 
全ての足がなくなっていた。

「兄ちゃん」
弱々しい声を出すタカシに近寄り
タクヤは、弟の足についた粘着を口でとり始めた。
そして、最後の力を振り絞り、タカシに伝えた。
「俺の体に乗れ、俺の背中から飛べ」
タカシは言われた通り背中に乗り、ジャンプした。
「兄ちゃん、脱出したよ、兄ちゃん・・・・」
タカシは振り返り、何度も叫んだ。
しかし、タクヤが返事することはもうなかった。

翌朝、洋子は朝食の準備をしていた。
いつもと変わらない日常─
真っ白なテーブルクロスの上には卵焼き、ベーコン、お味噌汁。
台所の隅には新しい ごきぶりホイホイ。
昔から続く人間とゴキブリの知恵比べ─

それも最近は見なくなり、
代わりに快適な高層マンションやビルが目につくようになった。

近代化を象徴するこの摩天楼も
「巨大な箱」なのかもしれない。

投稿日時:2009年12月29日 14:01 ページを表示