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◆第10回 秋の美術展めぐり( 5.November.2001)

〇洋画史を飾る7人展・ほか
2001年10月12日〜11月18日まで
萬鉄五郎記念美術館(東和町)
招待(入館料一般600円) 

 三つの展覧会について、二回に分けて振りかえってみたい。とっかかりとして、まず「洋画史を飾る7人展」から始めるが、他に「長谷川利行と二人」展(一関市博物館)と、ついにオープンした岩手県立美術館について触れる。話はあっちこっちに行ったり来たりするかもしれない。

 北上山地の紅葉を愛でつつ東和町の萬鉄五郎美術館へ行った。萬鉄五郎記念美術館は好きな場所のひとつだ。萬作品を観るだけなら、県立博物館のほうが遥かに充実していた(現在は県立美術館に収蔵先が移った)。それにもかかわらず、萬鉄五郎記念美術館を見た後のほうが充実感を覚えることが多かった。画家への熱い思いで満たされた空間がもたらす効果なのだろうか。同じような意味で僕が好きだった場所として、橋本八百二美術館があった。しかし、改めて言うまでもなく、橋本八百二美術館は今年3月に経営不振のため閉館した。

 「洋画史を飾る7人展」は、萬鉄五郎記念美術館を含む七つの美術館の共同企画展である。内訳は北海道立三岸好太郎美術館(三岸好太郎)、久米美術館(久米桂一郎)、天童市美術館(熊谷守一)、安田火災東郷青児美術館(東郷青児)、稲沢市荻須記念美術館(荻須高徳)、神戸市立小磯記念美術館(小磯良平)で、( )に記した画家の個人顕彰美術館であることが共通しているが、公立と私立の違いがある。また、公立でも町立、市立、県(道)立と異なる。

 それにしても、実に見応えのある作品が集まったものだ。それぞれの画家の画業の全貌を伝える10枚を各美術館から持ち寄ったということだが、意欲的な試みだと思う。
 なかでも、三岸好太郎の〈コントラバス〉は以前から観たいと思っていた作品だった。また、パリ留学中の久米桂一郎を黒田清輝が描いた〈画室にしての久米桂一郎〉(参考出品〉は目黒駅前の久米美術館で何度か目にし、とても好きな絵だったので、萬鉄五郎記念美術館で再会できたことは嬉しかった。久米桂一郎は画家としての知名度は今ひとつ他の画家に及ばないかもしれないが、小磯良平、熊谷守一、萬鉄五郎らが美大生のときの先生だった。

 見応えがあるという点では、一関市博物館の「鬼才 長谷川利行と二人」展も長く記憶に残るものになりそうだ。
 ここでいう二人とは、一関ゆかりの熊谷登久平(洋画家)と矢野茫土(詩人、日本画家、ボードレールの『悪の華』を口語体で全訳したことで知られる)のことだ。
 利行は酒癖が悪く、奇行で知られ、生前は評価されなかったが、没後、高い評価を得ていく。それは利行と友情で結ばれた矢野茫土による評伝や小説によるところが大きい。
 規模の小さい展覧会ながら、利行の代表作を堪能しつつ、利行と深く交わった一関ゆかりの二人の画業を知る、いい機会になった。帰りは遠回りをして、栗駒山麓のワインディングロードを満喫した。(つづく)