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◆第13回 ライヴ! ライヴ! ライヴ!( 17.December.2001)

●及川ジョージ・カルテット+CHIAKI
 2001年12月8日 ノンクトンク
 チャージ1000円
●タマ・チャールズ・グループ+及川ジョージ
 2001年12月9日 陸前高田ジョニー盛岡店
 チャージ2000円

  ある日、「及川ジョージって、すごいピアノがいるよ」と知人に教えられ、ライヴに出かけていった。汗だくになって、ものすごくスリリングなフレーズを弾く(たまにやりすぎてサーカスのようになるが)及川ジョージさんにすっかりまいってしまった。
 本来、僕は及川ジョージさんのような「ファイト一発」といった演奏は好みではない。たいていは、一度聴けば充分という気になる。
 ところが、及川ジョージさんの場合はそうではない。また聴きたくなる。何か麻薬のような力がある(僕は麻薬をやったことはないので、これはあくまでも譬喩ですよ)。さらに言うと、及川ジョージさんの演奏を聴くと、「よし、俺もひとつ頑張るか」という気になる。
 この力はいったい何なのか。
 音楽に対するひたむきな姿勢がその秘密なのではないか、と思う。及川ジョージさんは全身全霊を賭けて、好きなジャズを演奏している。その姿が聴くものの心を打つ。
 音楽というのものは、本来、このように個人的なものだ。つまり、他の人にとっては「ただ、うるさい音」としか認知されない場合もあるジャズが、僕にとってはエネルギー源となる。

 さて、ノンクトンクは盛岡市郊外の西見前にある。郊外のお店だから、お客さんは車で来る。だから、コーヒーやジュースを飲みながらジャズのライヴを聴いている。僕が古いタイプの人間のせいか、初めてここでライヴを聴いたときは、これはちょっと異様な光景だと思った。ジャズスポットというところは薄暗くて、煙草と酒の匂いがこもっているところという固定観念がある。ノンクトンクはこれとまったく正反対の清潔なお店だ。若い女性客が多いのもそのせいだろう。
 僕が高校生だった頃(1970年代のことだ)、盛岡にはジャズ喫茶が5軒はあった(もっとあったかもしれない)。当時はなかなかLPレコードが買えなかったから、ジャズ喫茶は貴重な音楽情報基地だった(デートスポットでもあったけれど)。
 CDの普及とジャズ愛好家の減少、家賃と人件費の値上がりなどの諸条件が重なって、ジャズ喫茶はどんどん姿を消してしまった。
 最近、ジャズを聴く人が増えてきている。ノンクトンクのような環境が新しいジャズファンを増やす原動力になると僕は思っている。ライヴを積極的にやっているのも嬉しい。

 一方、日本人のジャズを専門にして、全国のジャズファンにその名を知らしめている陸前高田ジョニーが今年の春(僕が転居してきたのと同時期に)盛岡駅前にオープンした。ここも秋吉敏子のソロ・ピアノなど話題のライヴを盛んに行なって、ジャズ・ファンの耳の栄養源となっている。リズム&ブルーズ・シンガーのタマ・チャールズこと玉山秀之さんのライヴもこの夏初めてジョニーで聴いた。僕はそれ以来のファンだ。
 この日は産経新聞盛岡支局の塩塚支局長を誘って行った。バンドには前回同様に及川ジョージさんがゲストで参加している。前日の自分のバンドとは勝手が違うせいもあって、いささか遠慮がちな演奏だったが、とても楽しかった。なにしろ、タマ・チャールズ(この名の由来がレイ・チャールズであることは容易に想像がつくだろう)は人の心を掴んで離さないエンターテイナーなのである。塩塚支局長も「こんな達者な人がいるのか」と驚いていた。
 さらに塩塚支局長を驚かせたのは(前回紹介した文士劇に塩塚支局長も出演されているのだが)、文士劇の際に化粧やカツラでお世話になった〈橋本かつら〉の佐藤紀幸さんがパーカッションとコーラスとMC(司会ですね)を担当していたことだ。

 その後、僕は旧知のY弁護士(この方も大のジャズ狂)と一緒に八幡町に流れた。
「伴天連茶屋で忘年会セッションをやっている」という噂を耳にしていたのだ。僕の小説を読んでくださったことのある方ならピンとくると思うが、伴天連茶屋は僕の小説に出てくるジャズ喫茶のモデルだ。土蔵を改造したその店は、1989年に惜しまれつつ閉店した。が、ときどきゲリラ的にライヴをやっている。
 その夜の忘年会セッションは13年ぶりの会合とのことだった。ノンクトンクでのライヴを終えた北田了一さん、たった今までジョニーで演奏していた及川ジョージさんらが集まってきてセッションを繰り広げた。恥ずかしながら、僕もギターを弾いてブルースをやってしまった。北田了一さんのピアノ、ジョン・コルトレーン・メモリアルバンドの黒江俊さんのサックス、同ベースの下田耕平さん、岩泉大司さんのドラムスという豪華メンバーに支えられて、こんなに気分のいいことはなかった。

 ところで、ジョニーの客層もひじょうに年齢層が広い。ジャズスポットが、いわゆるジャズ狂の溜まり場である時代はもう過去のことで、今は気軽に音楽を楽しむ場となっている。いい傾向だ。
 みなさんにもライヴをぜひお薦めしたい。ジャズスポットは決して敷居が高くないのです。ライヴチャージ(料金)もそんなに高くはない(出演者によってチャージは異なる。また、飲み物代などはチャージとは別会計)。