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目と耳のライディングバックナンバー

◆第301回 生き方としてのジャズ(5.Aug.2013)

 7月17日のモリゲキLIVEで、久々にJ.C.メモリアルバンドを聴いた。J.C.メモリアルバンドについては第5回第29回第30回にも書いているのでリンク先のバックナンバーもご参照いただきたいが、改めて紹介すると、ジョン・コルトレーン(1926~1967)というモダンジャズの巨人が残した曲だけを演奏するバンドで、メンバーは黒江俊(テナー&ソプラノ・サックス)、戸塚孝徳(ドラムス)、下田耕平(ベース)、鈴木牧子(ピアノ)。見てのとおりリズムセクション(ピアノ・トリオ)とサックスという、管楽器が入る場合の最小限の編成だ。何度か書いているように、私はリズム・セクション+1(ギターだったり、トランペットだったり)というカルテットの演奏が何よりも好きだ。1984年の結成だから、来年で30年になる。ここ2年ばかり休止状態だったとはいえ、同一メンバーでこれだけ長く活動をしているバンドは極めて珍しい。
 久しぶりのライヴは、奇しくもコルトレーンの命日である7月17日に行なわれた。

 プログラムは下記のとおり。
【第1部】
1.グリーンスリーブス
2.Mr.P.C.
3.ナンシー
4.ソウルアイズ
5.セィ・イット
6.インプレッションズ

【第2部】
7.アフロブルー
8.従妹のマリー
9.セントラルパークウエスト
10.至上の愛

【アンコール】
ベイシーズ ブルース

 盛劇タウンホールをぎっしりと埋めつくした(およそ180名の超満員だったというから、もしかすると最高記録ではないだろうか)聴衆を包み込むように鳴り響く黒江さんのテナーサックスは、以前よりもスピード感と豪快さが増したように思った。一方、ソプラノサックスの豊かな叙情性も黒江さんのもうひとつの面だ(ふだん、駄洒落ばかり言っている方と同一人物とは思えない)。
 そして、特筆しておきたいのはやはり鈴木牧子さんのピアノだ。もともと洗練された演奏をする方だが、いっそう磨きがかかり、ベースの下田耕平さんの演奏と相まって、このバンドに理知的な響きを与えている。戸塚孝徳さんのドラムスもアーシーな面とモダンな面がうまく溶け合っていた。もっとドラムソロを聴きたいと思った。
 ちなみに、 ジョン・コルトレーンはサックスを吹きながら考え、吹きながら高みを目指す人だった。だから、演奏時間は長くなりがちだった。「短くまとめろ」という指示があっても、事前に考えてそのとおりに演奏するなんてできないと拒否する。彼が目指す高みに到達するためには長い助走距離(演奏)を必要とした。
 このことを暗喩として、J.C.メモリアルバンドの30年になろうとしている活動と重ね合わせて考えている。
 メンバーはいずれも職業を別に持っている。だから、バンド活動は、一般的には「趣味」と見られる。けれども、この4人は(ちょっと大袈裟に言うと)命懸けでこの「趣味」をつづけてきた。ベースの下田さんはしばしば「ジョン・コルトレーンと出会ったせいで…」と口にする。濃淡はあっても、メンバー4人、同じ思いを抱いているのは間違いない。もっと言うなら、J.C.メモリアルバンドとは、この4人の生き方なのだ。それが、このバンドのもうひとつの魅力なのだろう。
 来年は結成30年を迎える。大いに楽しみにして待ちたい。
〈このごろの斎藤純〉
〇長雨のため、サイクリングにもオートバイツーリングにもなかなか出かけられない。なんとなく体がダルいのは、そのせいだろうか。
〇大雨の被害にあわれた方にお見舞い申し上げます。
『バーンスタインの指揮する同時代の音楽』を聴きながら

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