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目と耳のライディングバックナンバー

◆第317回  モダンバレエとフラメンコの融合 (7.Apr.2014)

 スペイン国立バレエ団での客演、あのピナ・バウシェに招かれてヴッパダール舞踏団でも踊り、英国ナショナル・ダンス・アワード2014にノミネートされる(惜しくも受賞は逃した)など着実に、そして華々しいキャリアを重ねているフラメンコ・ダンサーのエバ・ジェルバブエナ率いるエバ・ジェルバブエナ舞踏団の日本公演に行ってきた。
 詳細は下記の通り。
2014年3月23日(日)OPEN 14:30 / START 15:00
会場:新宿文化センター 大ホール

【ダンサー】
エバ・ジェルバブエナ
メルセデス・デ・コルドバ
ロレーナ・フランコ
クリスチアン・ロサーノ
エドゥアルド・ゲレーロ
【カンテ(シンガー)】
ホセ・バレンシア
フアン・ホセ・アマドール
エンリケ “エル・エストレメーニョ"
【ギター】
パコ・ハラーナ
【パーカッション】
アントニオ・コロネル
 公演は22日と23日に行なわれ、両日とも終演後にエバのアフタートークがあった。私が観たのは二日目の『雨』(日本初演)。ちなみに初日は『泥と涙』。
 冒頭、エバは客席から登場し、ステージに上がるやモダンバレエがはじまった。これがまた大変な集中力を感じさせるもので、手の先から足の爪先まで、首といわず二の腕といわず、全身のありとあらゆる部分が「観られる」ことを徹底的に意識した動きで、あまりの密度の濃さに息苦しくなるほどだった。これがプロローグだった。
 プロローグの後は怒濤のフラメンコ。ひとつ終わるたびに客席から嵐のような拍手が起きる。もちろん、私も一緒になって手を叩いた。あまり激しく拍手をしすぎて手のひらが真っ赤になった。
 エピローグでまたモダンバレエに戻った。そして、プロローグのときとは逆にステージから客席におりて去っていった。
 『雨』は「孤独」や「憂鬱」といったことをテーマにしているので、ま、暗いわけだが、これもフラメンコの一面だろう。エバ自身、アフタートークで、「孤独」も表現するに相応しい美しさを持っていると言っていた。いい言葉だ。また、ペルソナという言葉も発していた。
 アフタートークも充実していた。
 傑作だったのは客席からの「私はフラメンコを習っていますが、エバさんのフラメンコを見たら、私なんかがフラメンコを踊っていていいんだろうかと思いました。でも(やめたくないので)、『やってもいいんだよ』と言っていただければ嬉しいです」という質問というか嘆願。これはよくわかる。あまにりも違いすぎるのだ。客席にはフラメンコを習っている方が多かったから、共感の笑いが起きていた。
 これに対するエヴァさんの答えに目頭が熱くなった。
「100人いれば100のフラメンコがある。だから、あなたのフラメンコを踊ってください」。
 大きな拍手で会場が沸いたのは言うまでもない。
 日本はスペイン本国に次いでフラメンコ人口が多いそうだ。国民性の違いを超えて、なぜフラメンコがこのように受け入れられているのか。
 ひとつには日本人の感受性の高さが挙げられると思う。私自身、フラメンコのことをよく知らないのに、観るたびに胸が切なくなり、同時にまた熱くなり、そして、頭がボゥッとなる(この感覚は初恋を思いださせる)。
 そんなことを考えなら会場を後にした。
 宿への帰路、ちょっと遠回りをした。いくつもの公演を観た新宿厚生年金会館のあった場所がさら地になっていて、私はしばらくのあいだそこに立ち尽くしてしまった。
〈このごろの斎藤純〉
〇ようやく春本番となった。花粉症の私はくしゃみで、春の度合いがわかる。
ブラームス:4つのバラードを聴きながら

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