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目と耳のライディングバックナンバー

◆第328回  生きている文学館『高橋克彦一人六人展』 (22.Sep.2014)

 今週末(27日から)から、私が芸術監督をつとめている岩手町立石神の丘美術館で、いよいよ『高橋克彦一人六人展』が開幕する。高橋克彦さんは改めて紹介するまでもなく、今、日本で最も読まれている作家の一人である。
 克彦さんの作品はミステリー、怪奇小説、歴史小説、SFと多岐に渡る。特筆すべきはそのすべてのジャンルで文学賞を受賞なさっていることだ。このような作家はほかにいない。ミステリー作家、怪奇小説作家、歴史小説作家、SF作家という4つの顔に、もともとの出発点だった浮世絵研究家の顔、さらにはプロはだしの写真家の顔(そして、真景錦絵作家の顔)を加えて「一人六人展」という企画となった。
 この企画を立案したとき、「生きている文学館」にしたいという思いがあった。作家を顕彰した文学館や記念館は珍しくないが、そのどれもが画一的(自筆原稿、手紙、使っていた万年筆などの展示)で、一度行けばもう充分というところがほとんどだ。もっとわくわくする文学館ができないだろうかと、いつも不満に思っていた。作家の実像と知られざる顔、作家の息使いや、脳の中身まで伝わってくるような、そんな文学館・記念館を私は見てみたい。
 いずれ高橋克彦文学館・記念館が実現すると思う。この企画展はそのときを見据えて、礎になるようなものにしたいとも考えた。
 その思いをどれだけ形にすることができたか、実はまだまだ満足していない。というのも、スペースの関係で展示を見送らざるを得なかったもの(たとえば克彦さんのシングルレコードやLPレコードの大コレクションは昭和歌謡史の埋もれた細部から全体の流れまでカバーできるもので、ご自身の解説によるレコード・コンサートはいつも満員になる人気ぶりだ。みごとなジッポーオイルライターのコレクションも愛煙家のみならず興味を引くだろう)があるからだ。また、ご存じのように今年で第20回をむかえる盛岡文士劇では、高橋克彦一座の座長というべき存在でもいらっしるが、文士劇関連の展示にもスペースをあまり割けなかった。
 しかし、克彦さんと出会って30余年になる私でさえ、正直なところ、実はまだ全貌をつかみきれていない。それどころか、年を経るごとに奥行きと幅を増していく克彦さんに追いつくのはおろか、ますます離されていくばかりだと実感している。
 そんな現在進行形の「生きている文学館」としての『高橋克彦一人六人展』をぜひお楽しみいただきたい。
『高橋克彦一人六人展』のお知らせ
会  期:2014(平成26)年 9月27日(土)~11月3日(月・祝)
開館時間: 午前9時から午後5時(入場は4時30分まで)
●9月27日(土)は、午前11時から開場式を行い、正午より一般公開します
休 館 日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合翌日)
入 場 料: 一般 300(240)円/大・高生 200(160)円/中学生以下無料
○《東北文化の日》10/25(土)、26(日) 《文化の日》11/3(月・祝)は観覧無料です
【関連行事】
■「対談  高橋克彦 × 斎藤純(作家・当館芸術監督)」
9月27日(土) 13:30~ 聴講無料
会場/石神の丘美術館ホール

■朗読劇「愛の記憶」
10月12日(日) 14:00~ 入場無料
盛岡を舞台にした、記憶シリーズの同名短編小説を原作とした朗読劇です
会場/石神の丘美術館ホール
 朗読:坂口奈央(元めんこいテレビ アナウンサー)、伊勢二朗(劇団赤い風)
 ピアノ:山本範子(山本音楽教室主宰/岩手町)

■岩手町立図書館 × 石神の丘美術館コラボ
本展にあわせ、岩手町立図書館では、高橋克彦さんの本を展示・貸出します
協力/岩手町国際交流協会
〈このごろの斎藤純〉
〇めっきり秋めいてきた。私は八幡平を散策して、一足早く紅葉を楽しんできた。
〇上記でも触れた盛岡文士劇が今年も始動した。私は初めて悪役に挑戦することになった。自他認める「お人好し」なので、これは本当に難しい。困った、困った。
チェット・ベイカー・シングスを聴きながら

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