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目と耳のライディングバックナンバー

◆第355回 アートウォークを終えて (9.Nov.2015)

 岩手町立石神の丘美術館の人気企画『ISHIGAMI ART WALK 石神の丘アートウォーク』は、岩手にゆかりのある若い世代の美術家の作品を企画展示室だけでなく、当館の特徴でもある広大な屋外展示場を利用して紹介するシリーズ企画だ。2006年に第1回を開催、2008年、2010年、開館20周年特別編として開催した2013年、そして今回の5回目で最終回となった。
 本展の出品作家は下記のとおり。
◇浅倉 伸
1971年、岩手県盛岡市生まれ。1994年、早稲田大学社会科学部卒業。
布にマーカーで描く独自の方法で制作。
2002年、平成19年度岩手県美術選奨受賞。
2011年、「VOCA展2011」(上野の森美術館/東京)出品。2015年、個展(湘南くじら館/神奈川)。
岩手県盛岡市在住。

◇黒沼 令
1978年、岩手県盛岡市生まれ。埼玉大学教育学部卒業。2003年、福島大学大学院修了。
寄木技法による木彫作品を制作。
2009、2011年岩手芸術祭美術展彫刻部芸術祭賞受賞。
2012年、平成23年度岩手県美術選奨受賞。国画展彫刻部会員推挙。福島県郡山市在住。
   
◇澤谷 由子
1989年、秋田県横手市生まれ。岩手大学教育学部芸術文化課程造形コース卒業。2014年、上越教育大学大学院学校教育研究科教科・領域教育専攻芸術系コース修了。
      現在、金沢卯辰山工芸工房に在籍し、陶による立体作品を制作。
石川県金沢市在住。

◇高杉 隆
1971年、青森県八戸市生まれ。1997年、武蔵野美術大学短期大学部通信教育学部卒業。
2001年、平成13年度岩手県美術選奨受賞。2012年、「明日の仕事12人」(ギャラリー彩園子/盛岡)出品。
近年は作品をつなぎ合わせた表現に取り組む。
岩手県滝沢市在住。

◇本田 恵美
1972年、埼玉県久喜市生まれ。1995年、東北生活文化大学家政学部生活美術科卒業。
2006年、平成17年度岩手県美術選奨受賞。
素焼きに胡粉を塗り重ねた立体作品を制作。
2005、2012年、諄子美術館企画による個展(諄子美術館/北上)。岩手県遠野市在住。

◇柳田 陽一
1969年、青森県青森市生まれ。1993年、岩手大学特設美術科専攻科修了。
懐かしさとユーモアを感じさせる大型作品を、土澤商店街「街かど美術館 アート@つちざわ」、相ノ沢キャンプ場「滝沢アートフィールド」、盛岡市中央公民館「庭園アートフェスタ」等で発表。
岩手県花巻市在住。
 実は今回に限らず、ほとんどの作家は屋外での展示に慣れていないため、かなりの苦労を強いてきた。作家にとっては大きな挑戦だったが、これが契機となって新しい作品世界を広げた作家もいる。そういう意味も含めて、作家は展覧会ごとに成長、変化していく。私は芸術監督という立場でそれを目の当たりにしてきた。幸運だったと明記しておきたい。
 美術の世界は20世紀に入って大きく変わった。絵画、彫刻といった従来のジャンルにとらわれない多彩な表現が生まれた。また、題材も多様化してきた。つくる側だけでなく、観る側も変わってきた。少し前までは「わけがわからない」と言われた現代美術だが、作品と対峙して「感じる」、「考える」ということが浸透してきたと思う。
 来館者の表情を観察していると、戸惑いや驚きとともに笑顔も多く見られた。いずれにしても作品と向き合っている時間が長く、それぞれさまざまに楽しんでもらっていることが伝わってきた。
 アートウォークツアーに参加すると、作家の話を直接聞ける。これも本展の特徴だろう。作家自身の解説を聞くことは、個々の作品への理解を深めるだけでなく、「現代美術の見方」のヒントを教わることにもなる。私自身、とても勉強になった。
 「私の作品が現代美術なのかどうかわからないが」という作家もいれば、「現代美術というからには新しい扉を開かなければならない」という作家もいる。これも興味深かった。
 10年ひとくぎりとして今回が最終回となったが、石神の丘美術館では今後も岩手の現代美術を紹介していくつもりだ。クラシック音楽の世界は過去の遺産だけを聴いている(現代の作曲家の作品をプログラムに入れてもお客がこないのです)が、美術は同時代に生まれた作品が熱心に見られている。どちらが健全な姿か、それは改めて言うまでもないだろう。
〈このごろの斎藤純〉
○盛岡文士劇『源氏物語』の稽古が続いている。今年の出演者は台本を手放すのが早くて、ぎりぎりまで台本を手放せない私は大いに焦っている。
○今年もチケットは早々に売り切れ、私も知人らから「手に入らないか」と言われて嬉しい悲鳴を上げている。出演者も自由にはチケットを買えないのだ。この場をお借りして、お詫びを申し上げます。
デレク・アンド・ドミノス:ライブ・アット・ザ・フィルモアを聴きながら