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目と耳のライディングバックナンバー

◆第378回 ピアノ五重奏で名曲を聴く(石神の丘美術館コンサート)(24.Oct.2016)

 岩手町立石神の丘美術館ホールは室内楽やジャズを聴くのにちょうどいいスペースがあり、まるでヨーロッパの教会のように響きもいい。町民から寄贈されたグランドピアノもある。
 そこで私は、2009年に岩手町立石神の丘美術館の芸術監督に就任以来、美術館コンサートを開催してきた。岩手の音楽家たちに演奏の場を提供することでいっそう力をつけてもらいたいという思いも込めている。
 音楽仲間たちの好意に甘えて、ほとんどボランティアのような形で出演してもらっている。盛岡の弦楽四重奏団ラトゥール・カルテットの面々もそんな仲間たちで、石神の丘美術館では毎年コンサートを開かせてもらっている。
 そのラトゥール・カルテットが日本を代表するピアニストである岡崎ゆみさんと共演するという夢のようなコンサートがあった(10月13日午後2時開演)。
 実は、開催中(11月6日まで)の『眞壁廉彫刻展』の眞壁さんは岡崎さんと東京芸大のスキー部以来の長いお付き合いなのだ。『眞壁廉彫刻展』で展示されている「母になったピアニスト」は、そんなお付き合いの中から生まれた作品だ。キャピキャピ(←死語でしょうか)の女子大生だった岡崎さんがピアニストとして活躍しながら一児の母となり、立派に子育てもされた。「母になったピアニスト」はその成長ぶりを、ピアノの弾く女性の背中で表現した作品だ。30体を超える作品が結集している本展覧会の中でも私の好きなひとつだ。
 プログラムは岡崎ゆみさんのピアノ独奏で、ベートーヴェンの「エリーゼのために」、「月光ソナタ」から1番、「熱情ソナタ」から2番 。ショパンの「別れの歌」、「雨だれのプレリュード」、「ワルツ14番」。ラトゥール・カルテットの演奏で「星めぐりの歌」(宮澤賢治作曲/長谷川恭一編曲)、そして、ピアノ五重奏で映画音楽の『ひまわりのテーマ』、『80日間世界一周のテーマ』 。タンゴの名曲「ラ・クンパルシータ」と「ジェラシー」、ブラームスの「ハンガリアン舞曲第一番」、「同第五番」、「同第六番 」で演奏した。
 満員の客席からの熱い拍手に、5人はハチャトリアンの「剣の舞」で応えた。鉄の彫刻にかけた選曲である。
 岡崎さんは話芸も達者だ。曲の背景などをわかりやすくお話しいただき、集まったみなさんにも喜んでいただけた。なお、岡崎さんの申し出により無料コンサートとして開催できたことを付記しておきたい。
 一度は耳にしたことのある名曲ばかりだが、生演奏で聴く機会は決して多くない。私もこの贅沢なプログラムを大いに楽しませてもらった。
 美術と音楽はひじょうに近い芸術だと私は思っている。たとえば、ドビュッシーの音楽を「色彩感が豊かな」と表現することがあるように。画家のパウル・クレーは音楽を絵で表したし、作曲家のメンデルスゾーンは絵も達者で、画家の道に進んでも後世に名を残しただろう…と挙げていくとキリがない。
 これからも石神の丘美術館ではクオリティの高い音楽に親しんでもらえるように取り組んでいくつもりだ。

【岡崎ゆみプロフィール】
東京芸術大学、同大学院卒業。
1983年にハンガリー給費留学試験に最優秀で合格し、ハンガリー国立リスト音楽院に留学。
1986年、朝日新聞主催第5回「飯塚・新人音楽コンクール」ピアノ部門優勝。
帰国後、演奏家として全国でのソロリサイタルに加え東京フィルハーモニー、名古屋フィルハーモニー、九州交響楽団を始めオーケストラと共演。卓越した演奏内容と楽しめるステージ構成のコンサートが観客に大好評である。
また、テレビ・ラジオ番組の司会も務めるなど、演奏家としてだけでなく多方面で活躍している。
〈このごろの斎藤純〉
○急に寒くなった。オートバイシーズンが終わり、間もなくスキーシーズンがやってくる。振り返ってみると、今年は何かと忙しくて泊まり掛けのオートバイ・ツーリングができなかった。来年こそは…と机上でツーリング計画を練ることが生きる糧になっている(決して大袈裟ではない)。
ザ・グレイトフルデッド:ソー・メニー・ローズを聴きながら