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◆第56回  秋の夜長、ギターをつまびく( 20.october.2003)

 僕がギターを弾きはじめたのは中学校に入ったころだ。フォークソング(後にニューミュージックと名称が変わり、巨大な音楽産業と発展していった)がブームだった。高校に入ってからエレキギターに持ち替え、アマチュアのロックバンドを組んだ。大学に入って、さらに本格的に弾くようになり、セミプロの人たちのブルーズバンドに加えてもらった(そのころ、やはりアマチュアバンドだったスターダスト・レヴューと同じコンサートに出たことがある)。それから自分のバンドを組み、たまに中央線沿いのライヴハウスにも出た。そのころにはギターもそれまでの国産品からギブソンES335になっていた(ギターの代金はそれを買った楽器屋さんでアルバイトをして、月賦で支払った)。

 エレキギターを弾いていたころ、ときおりフォークギターを弾くと「なんて、いい音なんだろう。やっぱり生の響きにはかなわない」と思ったものだ。それで自宅ではしばらくフォークギターを弾いて、ふと気が向いてクラシックギターを弾くと、これまた「なんて温かみのある音なんだろう」と思い(フォークギターはスチール弦、クラシックギターはナイロン弦という違いがある)、しばらくクラシックギターばかり弾いた。ところが、クラシックギターやフォークギターをうまく弾きこなすことができず(バンドでも生かしきれず)、エレキギターに戻るということを繰り返していた。

 二十代の半ばにギターを手離した。ギターを持っているとバンド活動をやりたくなってしまう。音楽は聴くだけにして、演奏活動はしないという決心をしたのだ(どうしてそういう決心をしたのか、それはいずれ書きたい)。
 以来、ずっと弾いていなかったが、一年ほど前にオベーションのフォークギターを手に入れた(胴体にグラスファイバーを用いた独創的なギターで、独特のサウンドを持っている)。バンド活動はともかく、ギターを弾きたいという強い欲求に駆りたてられのだ。
 僕と同じくらいの年齢の人たちのあいだでギターがブームになっていたのは偶然だが、たいていの人が「若いころに弾いていて、また弾きはじめた」というUターン組だ。

 ところが、せっかく手に入れたオベーションを僕はちゃんと弾くことができなかった。スチール弦を押さえると指先がすぐに痛くなって、練習が進まなかったのだ。二十代のころは難なく弾けただけに、これはショックだった(当時に比べると指もあまり動かなくなっていたが、これは覚悟していた)。
 それで、クラシックギターに換えた。ナイロン弦のほうが押さえやすいからだ。

 僕が使っている楽器は正確にはクラシックギターではない。マイクが仕込んであって、タンゴやボサノヴァなどに使われるタイプだ。通称エレアコ(エレクトリックとアコースティックを合わせた造語)というが、基本的にはアコースティックギターだ。

 これまで僕は正式にギターを習ったことはない。だから、楽譜は読めない(コードはコードネームを見ただけで押さえることができるが)。
 今はタブ譜というギター専用の便利な楽譜もあるが、やはり楽譜は読めるほうがいい(ヴィオラを弾くときは楽譜がないと弾けないのだから、まったく読めないわけではないのだけれど)。
 友人にギターの上手なのがいる。押しかけていって無理やり教わっているのだが、彼からも「楽譜に慣れるのが一番の早道なんだが」と叱られる。

 その友人がギターを習っている(僕から見れば、もう習う必要がないくらい上手なのに)先生が伊藤隆さんで、伊藤さんのコンサートが続けてあった。
 ひとつは伊藤さんと加藤政幸さん(伊藤さんと同じ秋田出身で、ドイツ在住のギタリスト)によるジョイント・コンサート『遙かなるギターミュージックの旅』(2003年9月25日、盛岡市民文化ホール中ホール)だ。加藤さんの独奏、伊藤さんの独奏、そしてお弟子さんたちを交えての合奏という内容だった。

〈第1部〉加藤政幸ソロ
 @C.ドメニコーニ:コユンババ            
 AC.ドメニコーニ:砂山変化
 BA.アンドゥルシコ:波のささやき
 CV.アセンシオ:ラ・ガウパンサ           
 DV.アセンシオ:ラ・フリランサ

〈第2部〉伊藤隆ソロ
 DL.ブローウェル:鐘のなるキューバの風景
 EL.ブローウェル:11月のある日
 FM.ランガー:ジャズ組曲 ワークソング(1910)  リオダンス(1960)  スラップダンス(1990)
 G見岳 章(福田進一編曲):川の流れのように
 HP.マッカートニー(L.ブローウェル編曲):フール・オン・ザ・ヒル

〈第3部〉合奏
 Iイーグルス:ホテル・カリフォルニア
 JA.ヴィヴァルディ:二つのギターのための協奏曲

 伊藤さんに絞って話を進める。
 演奏された曲が、ブロウエルやランガーといった現代の作曲家による作品だったせいもあるが、とてもモダンな感覚の方だと思った。こういう方が盛岡で活躍されていることが、すごく嬉しい(クラシックファンというのは保守的な方が多い。そのため盛岡で行なわれるクラシック・コンサートでは、チェロ協奏曲といえばチャイコフスキーだし、交響曲といえばベートーヴェンばかりで、現代音楽はおろかショスタコーヴィチもマーラーも聴くことができない)。
 これは一方的な思い込みかもしれないけれど、伊藤さんはクラシック音楽というよりも、ギター音楽がお好きなのだという印象を受けた。だから、視野が広い。

 次にカフェ・ブルーメ(盛岡市菜園)で行なわれたギター名曲コンサート(2003年10月14日)に足を運んだ。ロドリゴやアルベニスの古典(と呼ぶには年代的には新しい作品なのだが)に加えて、仲間たちと一緒に(そのなかに僕の友人もいたのだが)ブラジルのショーロやサンバを演奏する伊藤さんに接して、やはりこの方はギター音楽がお好きなのだと確信した。
 もともとクラシック・ギターはジャンルの垣根が低いといわれている。けれども、伊藤さんのモダンな感覚を、そういう一般的な状況で説明することはできない。現代曲を弾いても、ちっともモダンに聴こえない演奏家も少なくないのだから、やはり伊藤さんならではの資質なのだと思う。

 伊藤さんのギターを聴いたら「ちゃんと基礎からやりなおそうかな」という気分になり、秋の夜長、アルペジオの練習など始めている。

◆このごろの斎藤純

〇お知らせがあります。山下洋輔ニューヨーク・トリオが盛岡に来ます。東北ツアーの締めくくりなので、きっと燃えると思いますよ。お聴き逃しなく。
 日時:2003年11月20日(木) 午後6時開場 午後6時30分開演
 会場:盛岡劇場メインホール
 前売:5,500円 当日 6,000円(中・高校生の当日券は 2,000円) 問い合わせ:019-622-7141(瀬川)
〇今回はちょっと趣向を変えて書いてみた。これからもたまにこんなふうに書いてみようかと思っている。

ホセ・ラミレスの響きを聴きながら