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◆第58回  大いに笑わせていただきました!( 17.november.2003)

 第3回おでってリージョナル劇場
 「窓際のセロ弾きのゴーシュ」2003年10月31日(金)19時開演
 おでってホール

 宮沢賢治の童話(日本最初の音楽小説でもある)「セロ弾きのゴーシュ」を、劇団「黒テント」の山元清多が舞台用に脚色した作品を下敷きに、盛岡市在住の劇作家おきあんごが全編盛岡弁に置き換えた音楽劇だ。チラシ通りに表記すると、宮沢賢治原作、山元清多作、おきあんご脚色となる(ややこしい?)
 3日間3回の公演のうちの初日に行った。

 何とも愉快な舞台だった。僕はほとんど笑いどおしだった。
 一言であらわすなら「達者な演技で息をつく間も与えないドタバタ芝居」だった。これ、褒め言葉のつもりである。観客に「笑われる」のではなく、「笑わせる」のはとても難しいことだ。最初から最後まで高いテンションを保っていたから、あんなに愉快な舞台になったのであって、生半可なことではああはならない。
 原作とは設定が異なり、ランプ会社で残業させられているゴーシュのもとにいろいろな人が訪ねてきて、仕事の邪魔をするという展開だが、これは賢治の原作とはまったく別のお話と思ったほうがいいだろう(だから、がちがちの賢治ファンが観たら、きっと怒りだすに違いない)。
 音楽劇なので歌も披露する。ゴーシュが舞台狭しと暴れながら歌う「インドの虎狩り」(盛岡市在住の長谷川恭一のオリジナル作品)は鬼気せまるものがあった。
 高いテンションを支えたキャストを紹介しておきたい。

畑中美耶子(司会、掃除婦)
大森健一(ゴーシュ)
千葉伴(星)
永井志穂(星の妻)
及川司(夜回り)
大志田千鶴子(課長)
佐藤愛(出前持ち)

 鬼気せまるという意味では、夜回りも星の妻も凄かった。ことに星の妻には圧倒されっぱなしだった。
 芝居を観ているあいだ、盛岡にはユニークなキャラクター(容貌も含めて)がずいぶんいるもんだなあ、と思っていたが、カーテンコールのときに普通のおじさんとお嬢さんたちが舞台に立っているのを目の当たりにして驚いた。ユニークなキャラクターは(容貌も含めて)すべて演技だったのだ。脱帽するしかない。

 主なスタッフのみ紹介する。演出は留川はじめ、音楽監修は寺崎巌と太田代政男、舞台美術と宣伝美術は長内努。
 寺崎さんと太田代さんはいわば「生き宮沢賢治」みたいな方、長内努さんは大好評だった「ぼくらの時代展」(啄木・賢治青春館)の美術も担当されていた。残念ながら留川さんについては何も知らない(ごめんなさい、アマチュア演劇の盛んな盛岡に暮らしていながら僕は演劇をほとんど観ないので)。

 出演者は盛岡弁で苦労したという。僕も盛岡で生まれ育ったくせに、ところどころ意味のわからないセリフがあった。話は飛ぶが、標準語の浸透と地方都市の景観の東京化はみごとに一致していて、方言と一緒に古い街並みは(古くから使われてきた町名も)消えいき、それと同時に人情も失われていった。
 その反省を徹底しないかぎり、地方の文化の存続はますます難しくなる。

 おでってリージョナル劇場は、盛岡にゆかりのある人物、歴史、風土など地域の持ち味を最大限に生かした舞台をシリーズで上演する企画で、今回が3回目となる。もちろん、スタッフもキャストも地元の人たちだ(畑中美耶子さんという盛岡弁のオーソリティの存在がこの企画では大きい)。
 リージョナル劇場に限らず、おでってが企画する催しは、ふるさとを見直し、大切にしていこうという人たちに支えられている。プラザおでっては観光施設なのだが、この活動は今後ますます重要な役割を担っていくに違いない。

 ついでに記しておきたいことがある。おでってホールは演劇をやるには不備な点が多いので向かない。かといって、音楽をやるにも音響が悪いので演奏会にも向かない。多目的ホールの欠点の見本と言っていい施設だ(周知のようにプラザおでっては、建造物としての評価もひじょうに悪い)。にもかかわらず、とても有効に使われている。
 施設としてプラザおでっては県民会館や盛岡市民文化ホールとは比較にならないほど劣っているのに(唯一、立地条件だけは恵まれているが)、それでも文化の拠点として重要な役割を果たしているのは、スタッフが自由な発想をし、盛岡を拠点に活躍している各分野の方々と積極的に交流しているからだ。そして、何よりも地元の文化を愛する心意気が強く感じられる(ちなみに、「ぼくらの時代」展が好評を博している啄木・賢治青春館も、おでってとスタッフが重なっている)。
 とかくハコモノ行政という批判が寄せられがちだが、要は「運営するスタッフの知恵と心意気」なのだということを教えてくれる。

◆このごろの斎藤純

〇精神的にも肉体的にも(短期間ながら)過酷な夏を過ごしたせいか、ここにきて「何もやる気が起きない」という困った状態に陥っている。時間が解決してくれると思うが、締切りは待ってくれない。
〇矢巾町が主宰する田園室内合奏団などが出演する「田園ハーモニーコンサート2003」の本番(下記をご参照ください)が近づいてきた。今年はヘンデルの「メサイア」からの5曲(合唱が加わる)を中心としたプログラムだ。僕はヴィオラを担当しているのだが、仕事のため週末に盛岡にいることがないので練習に行けず、内心では焦っている。
〇田園ハーモニーコンサート2003のお知らせです。入場無料ですのでお誘い合わせのうえご来場いただければ幸いです。

2003年11月30日(日)14:00矢巾町田園ホール
曲目:ヘンデル「メサイヤ」抜粋 他
客演コンサートマスター:長谷部雅子(東京ゾリステン・コンサートマスター)、コントラバス:安達昭宏(フランクフルター・ムゼウムス・オーケストラ・サイトウ・キネン・オーケストラ)、ソプラノ:村松玲子(岩手県立不来方高校)
指揮:寺崎巌
合唱指揮:阿部智則(岩手県立不来方高校)
出演:田園室内合奏団、田園ホール混声合唱団、コールパープル、矢巾コール、コール・ネネム、コールM、矢巾中学校・矢巾北中学校・不来方高校音楽部

セロ弾きのゴーシュ(林光作曲)/藤原真理を聴きながら