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◆第68回  イーハトーヴの音楽( 5.april.2004)

 おでってシアター21
 モリーオの音楽家たち I 〜長谷川恭一作品集〜
 2004年3月20日 18時30開演(夜の部)  プラザおでって「おでって」ホール

 この連載でも何度か触れてきた長谷川恭一さんの音楽(バックナンバー第36回、第44回、第57回参照)をまとめて聴く機会があった。ファンとしては待ち望んでいた演奏会だ。
 まずはプログラムをご覧ください。

--第1部--
[弦楽四重奏]
@ ふたつのガマノホ A.子守唄  B.ゴーシュのテーマ
(第2回盛岡劇場創作舞台公演〈銀幕の月〉)
A 樫の木のテーマ(もりげき8時の芝居小屋〈ノニ先生と樫の木〉)
B 印度の虎狩(おでってシアター21 もりおか啄木・賢治青春館開館記念)
ヴァイオリン 山口あうい
ヴァイオリン 米倉久美
ヴィオラ 寺崎巌
チェロ 三浦祥子

[ヴァイオリンとチェロの二重奏]
C 冬じたく(もりげき8時の芝居小屋〈なんだりかんだり読み語りコンサート〉内海隆一郎・作「街の眺め」より)
ヴァイオリン 米倉久美
チェロ 三浦祥子

[ 無伴奏チェロ]
D 山月記(もりげきファームプロデュース公演 中島敦・作〈山月記〉)
チェロ 三浦祥子

[チェロ付歌曲]
E こんこんさまに
作詞:森 はな
(絵本〈こんこんさまにさしあげそうろう〉から)
チェロ 三浦祥子
ソプラノ 小原育世
ピアノ 長谷川恭一

[弦楽四重奏の伴奏による歌曲]
F 太鼓八郎
G こんな気持ちは初めてだ
作詞:吉村 健二
(第8回盛岡劇場創作舞台公演 ミュージカル〈太鼓八郎〉)
ソプラノ 小原育世
メゾソプラノ 中野晶子
テノール 中野寛司
バリトン 小原一穂
バリトン 阿部学
@と同メンバーによる弦楽四重奏団

[コンサート形式によるオペラ]
H 〈走れ!メロス〉より第7、8、9場
作詞:阿部正樹
(第9回キャラホール少年少女合唱団コンサート 子供のための創作オペラ)
クラリネット 田中克徳
ヴァイオリン 米倉久美
チェロ 三浦祥子

--第2部--
[箏合奏]
I 遙かなる道(第27回全国高校総合文化祭日本音楽部門参加 文部科学大臣奨励賞受賞)
岩手県立盛岡第二高等学校 箏曲部

[弦楽合奏]
J 弦楽のための組曲〈ノスタルジア〉より
I.ノスタルジア
IV.火星の夢
V.エチュード
(第4回劇場創作舞台公演〈ノスタルジア〉)
弦楽合奏団バディヌリ 他

[ア・カペラ/弦楽合奏/重唱と弦楽合奏]
K ノンノンシェルター
L カノン
M 親子
作詞:阿部 正樹
(盛岡市民文化ホールこけら落とし公演 市民音楽劇アーツルネッサンス盛岡〈ここからはじまる物語〉より)

*出演者全員による「ここからはじまる物語」がアンコールで演奏された。

 これまで長谷川さんの音楽を聴いて感じてきたことを簡単にまとめてみます。

[1] メロディラインが美しく、ことに歌曲の場合は親しみやすい(覚えやすい)。

[2] 独特の和音感覚とリズム感覚によるモダンな響きを持っている。

[3] 上記2点に関連して、耳に聴こえてくる音楽は「易しい」が演奏は決して易しくない(僕は長谷川作品を演奏したことがあるが、リズムが複雑だったり、合わせるのが難しい和音がよく使われるので)。

[4] 総合的な印象として、長谷川さんの音楽は「優しさ」や「慈しみ」といった感情に溢れている。聴いた後に残る深い余韻から僕は「長谷川さんは未来を信じている人なんだなあ」と結論を導いている。巷には人生の応援歌とやらがたくさんあるが、ああいうのを聴くと僕は白ける。長谷川さんは「世の中、そう悪いもんじゃないよ」と呟くように訴える。大きくて威勢のいい声ではないけれど、その訴えは聴くものの心の奥深くにちゃんと届いている。

[5] 長谷川さんの音楽は確かに優しいのだが、しかし、甘ったるい音楽ではない。ある厳しさを含んでいる。東北の真冬を想わせる厳しさと言ったらいいか。

[6] これが一番肝心なことだと思うのだが、長谷川さんの音楽は他の誰の音楽にも似ていない。ドイツ音楽風でもフランス音楽風でもなく、ロシア音楽風でもない。すでにご自分の世界を築いている。作曲ばかりでなく、アレンジ(編曲)においても同じことが言える。長谷川さんはアレンジもよくするが、あるとき「これは長谷川さんのアレンジだな」と思って聴いていたら、やはりそうだった。

 今回、まとめて聴くことで改めて上記を確認できた。[3]に関連して少し付け加えると、BやDは近・現代の音楽書法を取り入れた作品で、「耳に易しい」音楽ではない。にもかかわらず、Bは幼稚園の子供たちが飛び跳ねて喜んだという。子供の耳は恐ろしい。
  この日のプログラムではDが難曲中の難曲だが、いささか物足りなかった。もっと弾きこんだうえでの演奏を聴きたかった。

 二高の箏曲部による演奏は特筆に値する。華麗な響きと緊張感のある流れ(人々の心をリラックスさせる音楽に緊張感は無縁と思われるかもしれませんが、実はそうではないのです)を生む作品、そしてレベルの高い演奏技術を持つ二高箏曲部の「幸福な出会い」を目の当たりにできたのは、この日の大きな収穫だった。
 長谷川さんの作品は純邦楽にも洋楽にも媚びていない。近年、和楽器による洋楽演奏が脚光を浴びたりしているが、あれは融合ではなく迎合だろう。

 演奏会は長谷川さんとコーディネイターの寺崎巌さんのお喋りを交えて進められた。長谷川さんとの付き合いが長い寺崎さんは裏の事情までよくご存じだから、いろいろなエピソードを聞くことができ、これも楽しかった。
 ところで、作品が生まれた背景に演劇(ミュージカルなども含む)が関係していることに気がつく。つまり、長谷川作品は舞台音楽なのである(ジャズを聴いている人ならピンとくると思いますが、いわゆるスタンダード・ナンバーというのは主にミュージカルで歌われた曲なんですね)。盛岡は演劇が盛んなことで知られている。その盛岡の演劇人との出会いによって、長谷川さんの音楽世界は花開いたと言っていい。

 昼夜2回の公演はどちらもチケットが売り切れだった。春の人事異動でプラザおでってを去る坂田裕一副館長は「文化の地産地消」を常々説いていらっしゃるが、着々と根付いているように思う。

◆このごろの斎藤純

〇花粉症の季節ですね。冷夏の翌年なので杉花粉の飛散量は少ないそうだけど、僕は通常の3000倍という過敏体質なので「花粉が少なくて楽だ」という実感はない。いい薬があるのだが、ときおり効かなくなって鼻ミズ、クシャミ、目のかゆみ、顔のむくみ、かすかな頭痛に襲われる。
〇発売中の「小説新潮」3月号に短編小説『東京の空』が掲載されています。お目に止まる機会がありましたら、ぜひ手にとってご覧ください。
〇4/16〜18、名古屋ドームで旅フェア04が開催されます。
何か僕の趣味とは異なる感じのイヴェントなのですが(笑)、初日の午後4時からのトークショーに出演します。岩手など北東北の魅力を語りたいと思っています。
名古屋方面にお知り合いがいましたら、広めてください。
ホームページは http://www.tabifair.com/

パガニーニ「ヴァイオリンとギターのための音楽」を聴きながら