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◆第82回 秋を告げる音楽会 ( 18.October.2004)

○弦楽合奏団バディヌリ 第8回定期演奏会
2004年10月9日 午後7時から 盛岡市民文化ホール大ホール

 盛岡の弦楽合奏団バディヌリは、毎年10月に定期演奏会をひらいている(僕が聴きはじめたのは第6回から)。指揮者を持たず、団員が自発的に音楽を創造していくバディヌリの音楽性については、これまでにも書いてきた(第36回第57回をご参照ください)。
 バディヌリの定期演奏会を聴くと「ああ、もう秋なんだなあ」と多少センチメンタルな気分になる。それは、弦楽合奏という演奏形態による曲目のせいなのか、バディヌリならではの特徴なのか。たぶん、そのどちらのせいもあるのだろう。僕にとっては、東北の長い冬を迎える前の「心の冬支度」のためにバディヌリの演奏会は欠かせないものになっている。
 演奏曲目をご覧ください

〈第1部〉
@ G.ホルスト:ブルックグーン組曲
   I Prelude, II Air, III Dance
A J.アイアランド:ダウンランド組曲より
   II Elegy, III Minuet

〈第2部〉
B ドヴォルザーク:弦楽のためのセレナーデ Op.22

〈アンコール〉
C 平井堅:瞳を閉じて(編曲:寺崎巌)
D 星吉昭:青い花(編曲:寺崎巌)             
E 富田勲:新日本紀行テーマ曲(編曲:寺崎巌)

 第1部はバディヌリが得意とする英国音楽ですね。@のホルストといえば『惑星』が有名だ。『惑星』は管楽器が大活躍する曲という印象があるが(ホルスト自身がトロンボーン奏者だったからだろう)、弦楽合奏曲にも名曲を残してくれた。「ブルックグリーン組曲」はホルストが教鞭をとっていたセント・ポール女学校の弦楽オーケストラのために書いた曲で(「セント・ポール組曲Op.29-2」もそうです)、同校のあった地名がタイトルになっている。

 アイアランドのAは初めて聴いた。英国の弦楽合奏曲のCDを6、7枚持っているけれど、どれにも入っていなかった。いったい寺崎さんはどこからこういう「隠れた名曲」を見つけてくるのだろうか。
 ホルストにもいえるが、この曲には淡い光の明るさはあるが、底抜けな陽気さはない。秋風に枯れ葉が舞うような一抹の寂しさはあるが、冷たい暗さではない。こういう曲を弾かせると、なぜか(といっては失礼だが)バディヌリは本当に聴かせてくれる。

 実は僕の隣にバディヌリの鍵盤楽器奏者で(今回は出番がなかった)、作曲家でもある長谷川恭一さんがいたのですが、アイアランドの曲を僕は「もしかして長谷川さんの曲?」と思ってしまった(事前にパンフレットを見ていなかったので、演奏曲目は知らなかった)。
 長谷川さんの音楽は、東北の自然から生まれた音楽だ。目をつぶって聴くと、岩手山や北上川、(のっつのっつと)降りしきる雪、いっせいに花咲く春などの情景が思う浮かぶ。アイアランドからも同じようなものを感じた。
 やはり、イギリス音楽は東北によく似合うと改めて思った。

 これで第1部が終わったので、ちょっと肩すかしを食ったような、物足りなさを覚えた。
 しかし、それは第2部のドヴォルザークで払拭されるだろうと期待が高まった。

 ドヴォルザークのBはプロも迂闊には手を出せない名曲であり、難曲だという。バディヌリは9年前のドイツ公演でこの曲を演奏し、大絶賛されている。
 やや硬い印象でスタートし、「おや、どうしたんだろう」と思ったが、さすがのバディヌリもこの曲が相手ではいつもと感じが違うのも仕方あるまい。

 正直、うまいと感嘆した。立派な演奏だと思った。
 でも、これはバディヌリではないんじゃないか、という思いも強く持った。
 随所にバディヌリらしいのびのびとした演奏が聴かれた一方、随所に バディヌリらしくない硬さも目立つ演奏だった(チェロパートの聴かせどころで音程がそろわなかったのは、その硬さのせいではないかと睨んでいるのだが)。ただ、この演奏は「録音で聴くと名演かもしれない」と思わせた。丁寧に、破綻がなく、慎重にきっちりと演奏されていたからだ。
 それは少しも悪いことではないのだけれど、聴くほうもだんだん贅沢になり、我が儘を言うようになる。ことに第一ヴァイオリンは、はったりというか、けれんがあってもいいような気がした。
 まあ、このへんは難しいところで、一歩間違うと「俗受け」を狙ったいやらしい演奏になってしまう。

 しかし、バディヌリが「いやらしい演奏」に陥らないことは、自らアンコールで証明してくれた。
 今回は3曲とも寺崎巌さんの編曲だった(原曲に沿った、てらいのない編曲で、寺崎さんのもうひとつの才能を知った)。Dは、この1日に急逝された星吉昭に捧げられた。星さんと交流のあった寺崎さんが、沖縄民謡のこの明るい曲をあえて選んだことが僕は嬉しかった。星さんもきっと天国で喜んでくださったことと思う。

 締めくくりの新日本紀行には、ただただ脱帽だ。茶目っけがあり、それでいて深い弦の響きをたっぷり聴かせてくれた。これぞバディヌリという演奏だった。欲をいえば、この感じでドヴォルザークもやってほしかった(とはいえ、ドヴォルザークを相手にそういうわけにもいかないんでしょうなあ)。
 後で耳に入ってきたのだが、リハーサルのときに飛ばしすぎたので、本番では抑えるように心がけたという。これはバディヌリが異なるタイプの演奏もできるというポテンシャルを示す秘話だと思う。

 盛岡を囲む山々が心なしか色づいてきた。冬支度をはじめているのだろう。

◆このごろの斎藤純

〇9月から10月という時期はオートバイ乗りにとって、最もいいシーズンなのだが、天候に恵まれないのと本業の他に野暮用・雑用がびっしりと重なって身動きとれない状態がつづき、まったくオートバイに乗っていない状態がつづいている。
〇小説を書くスピードが落ち、集中力が散漫になっているのはそのせいだ。一日休んで、遠乗りでもすればリフレッシュすると思うのだが、休む勇気がない。困ったものだ。
〇すでに新聞報道などでご存じの方も多いと思いますが、このたび谷藤盛岡市長から盛岡市行財政構造改革推進会議の委員を命じられました。盛岡は今、着実に変わりつつありますが、少しでもお役に立つことがあればと思い、お引き受けしました。といっても僕に特別の力があるわけではありません。僕は市民と行政をつなぐパイプ役であり、行政が進めている市民協働の際の潤滑油だと思っています。みなさんからの忌憚のないご意見を心からお待ちしています。
〇お知らせです。11月23日(火曜日13:00から15:00)にオートバイと車の本の専門店リンドバーグ世田谷本店(東京都世田谷区尾山台2−29−20 TEL03−3705−2021)で、拙著『オートバイの旅はいつもすこし寂しい』のサイン会があります。いろいろとお喋りをする時間もあると思います。お誘い合わせのうえ、足をお運びください。

大澤壽人/ピアノ協奏曲「神風協奏曲」を聴きながら