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◆第84回 笑って泣いて、泣いて笑って『盛岡青春キネマ館』 (16.November.2004)

○第4回おでってリージョナル劇場 
  『盛岡青春キネマ館 〜どんどんおうちが遠くなる〜』
 2004年11月12日19時30分開演 おでってホール

 盛岡ゆかりの題材を舞台にするおでってリージョナル劇場(バックナンバー第58回をご参照ください)の第4弾です。去年、このシリーズ第3弾を初めて観劇して感激(スミマセン)したので、大いに楽しみにしていた。今回は藤原正教さんが書き下ろした脚本を、黒テントの山元清多さんが演出。キャストは以下のとおり。

畑中美耶子(「夕陽館」女将、タエ、トメ)
伊勢二朗(「夕陽館」主人、紙芝居屋)
千葉伴(小林泰彦、鈴木富之)
永井志穂(康子、みどり)
及川司(溝口監督)

 前回同様、達者な人たちが揃い、しかも山元清多さんを演出をお迎えしているのだから期待も高まる。開演前の会場内を「お菓子はいかがですか」と1個10円のお菓子を、お嬢さんたちが売り歩いていて、これも雰囲気を盛り上げる。長内努さんによる、昭和30年代を再現した舞台美術も眺めているだけで楽しい。
 その売り子さんのセリフからはじまる開幕の演出から、オリジナル曲『キネマの歌』(音楽は藤原章雄さん)の大合唱で迎えるエンディングまで、いや〜、笑った笑った。馬鹿馬鹿しい笑いもあれば、思わず吹きださずにはいられないセリフがあり、また自分と照らし合わせて微苦笑させられる場面もあった。

 『西鶴一代女(1952)』や『雨月物語(1953)』など「幽玄美」ともいえるような映像美で知られる溝口健二監督(1898-1956)は、小学校6年のときに盛岡の親戚に預けられ、当地で小学校を卒業した(ちなみに、これが最終学歴となる)。この事実をもとに、自由な発想でふくらませた脚本がまた素晴らしい。舞台設定は盛岡だし、しばしば盛岡弁も使われるけれど、これは日本中の人々の共感を得る芝居だと思う。
 舞台でなければ成しえないもの、舞台でしか観ることのできないものを観せていただいた(そういう意味ではミステリー劇『夜の来訪者』もそうだった)。
 僕は演劇に関してズブの素人だけれど、これはいわゆる「通」が観ても唸ったに違いない。ヨーヨー・マのコンサートがそうだったように、本当に素晴らしいもの、力のあるものは素人にも玄人にも感動を与える。
 山元清多さんがパンフレットに寄せた文章を転載したい。

 「思い出」とは、なんなのか? ある人は「回想」といい、またある人は「追憶」というかも知れない。言い方はともかく、過去にあったことを思い起こすこと。過去とは過ぎ去ってしまった時間、失われた時? もうないもの?
 人は、もうないものを思い出す。と、「思い出」とは、ないということなのか? 「思い出」というかたちであることなのか?
 それにしても、人はなぜ牛が反芻するように過去を「思い出す」のか? 懐かしさと悔恨の想いとともに。だから「思い出」というのは、いつも甘酸っぱい。
 若さと反抗心に満ちていた頃は、「思い出」を疎んじていた。「思い出」なんてください、と思っていた。本当は「思い出す」ことが怖かっただけだったのだ。
 「思い出」についての、正教さんの新作を演出させてもらって、彼が「思い出」からもう一度始めようとしているのではないかと妄想した。「思い出」というのは、もう一度「歴史」をとりもどすための出発点なのではないか、と。妄想ではあるが、すてがたい妄想だ。

 「思い出」といえば、何年か前に入手したCD「加藤和彦作品集」の帯に加藤和彦氏本人のコメントが出ている。これがまたとんでもない名文なので、ご紹介したい。

 私にとって、これは単なる思い出に過ぎないが、思い出が人生にとって重要な、そして意味のあるものになる時がある。だから、皆さんが、私のこれらの思い出を共有して下さることに感謝を覚える。

 おでってホールを出た僕は中津川沿いの道を通って自宅に向かった。あんなに笑ったお芝居だったのに、思いかえすと涙が溢れてきて仕方がなかった。

◆このごろの斎藤純

〇来月、小学館から『龍の荒野』が出る。これで今年は『沈みゆく調べ』(徳間書店)、『ツーリング・ライフ増補改訂版』(春秋社)、『銀輪の覇者』(早川書房)、『オートバイの旅はいつもすこし寂しい』(ネコ・パブリッシング社)と合計5冊も出すことになってしまった。昨年、『ただよう薔薇の午後』(光文社文庫)一冊しか出せなかった分、よく働いた。
〇そのおかげで、今年はオートバイの距離がまったく伸びなかった。いつもより多く上陸し、東北にも被害を与えた台風の影響もある。僕にとってはツーリングがリクリエーションつまり「再創造」の源なので正直なところ、けっこうつらかった。
〇僕と同じようにオートバイであまり出かけられなかったツーリング・ファンから『オートバイの旅はいつもすこし寂しい』を読んで、旅の気分を味わっているという感想をいただく。同好の士としてこれ以上嬉しい言葉はない。
〇その『オートバイの旅はいつもすこし寂しい』のサイン会があります。みなさんのご来場をお待ちしています。BMWBIKESの永山編集長、いつも一緒に旅をして素敵な写真を撮ってくれる小原信好カメラマンも参加する予定です。どうぞ気軽に声をかけてください。
●場所:東京都世田谷区尾山台2-29-20 株式会社リンドバ−グ世田谷本店 (03-3705-2021)
●日時:2004年11月23日(火曜日)13:00-15:00

テレマン/ターフェル・ムジークを聴きながら