年末年始はCDを聴き、本を読んで過ごした。本は『一八八八 切り裂きジャック』(服部まゆみ著/角川文庫)だ。タイトルからもわかるとおり、19世紀末のロンドンを震撼させた「切り裂きジャック事件」を題材にした大作(769ページ!普通の文庫本3冊分くらいの厚さだ)で、とても面白かった。
といっても、これ、新作ではない。1996年に刊行された親本(単行本)を2002年に文庫化したものだ(僕が買ったのは去年の秋だ)。切り裂きジャックを扱った小説は海外でも日本でも昔からたくさん書かれてきたが(たとえば、エラリー・クイーンの『恐怖の研究』が有名)、解説で仁賀克雄氏が「本書は構想と執筆に充分な時間をかけており、じっくりと醸成した美酒にも似た豊穣な味わいをもつ、質量ともに読みごたえのある作品である。完成より六年を閲した現在再読しても、その印象は変わらない」と高く評価しているとおり、読み応えがあり、そして読後に余韻の残る作品だった。仁賀氏はつづけて「当時どうしてもっと評判にならなかったのか不思議である。イギリスに英訳しても充分に通用する小説である」と書いていらっしゃる。まったく同感です。まあ、しかし、世の中にはこのような「話題にならない名作」のほう多いのかもしれません。
CDは去年の今ごろと同様に(バックナンバー第62回をご参照ください)ギターをよく聴いている。
ただ、クラシックギターからは離れぎみで、現代音楽やジャズを聴くことが多い。現代音楽はジャズの延長で聴きはじめたわけだから、何を聴いても結局はジャズに戻っていくようだ。
古楽器によるバロック音楽をしぶとく聴きつづけているのは、たぶんジャズに通じる音楽性があるからだと思うが、それについてはいずれ機会を改めて書くことにします。
今回はギターについて整理、分類してみようと思う。まず、ギターには下記の種類があります。
・クラシックギター(またはガットギター)
・フォークギター(最近はアコースティックギター、縮めてアコギと呼ばれることが多いですが、アコギにはクラシックギターも含まれるのでややこしい)
・エレキギター
エレキギターはソリッドボディ(ロックに使われる)とフルアコースティックボディ(略称フルアコ。主にジャズに使われる。最近はアーチトップともいう)に分けられる。
アコースティックギター(クラシック、フォーク)にマイクを仕込んだものがあって、これがエレアコと呼ばれている。一般にアコースティックギターをコンサートで使う場合、マイクでギターの音を拾い、スピーカーから増幅して流すPAが使われる。だから、簡単に言うと、最初からマイクを仕込んでしまったほうが早い、というのがエレアコなんですね。
ただし、クラシックコンサートでは今もマイクが使われることはまずない。
クラシックギターが用いられる音楽のジャンルを見てみよう。ボサノヴァなどのブラジル音楽、タンゴ、フラメンコ、クラシックならルネサンス、ロマン派、現代音楽まで聴くことができる(ルネサンスやバロック時代のリュート音楽をギター用に編曲したものが数多く出ていて、名演も少なくないけれど、僕はリュートを用いた古楽器/オリジナル演奏のほうが好きだ)。
クラシックギターのジャズってすぐにはピンとこないかもしれませんが、フュージョン全盛期にアール・クルーがヒットしているといえば、「ああ、そういう人がいたな」と思いだされる方も多いのでは?
僕が聴いているのは、アール・クルーのようなイージーリスニング風のジャズではない。ラルフ・タウナーが目下のアイドルです。彼の音楽をどう表現していいのか。クラシックと現代音楽をミックスした上質な即興音楽(←ここが一番のポイント!)といってもあまりに抽象的すぎますね。
他にジ・パウロ・ベッケル、ジーン・ベルトンチーニ、エグベルト・ジスモンチなどブラジル系のギター音楽もよく聴く。
ギターの整理に戻る。
スチール弦のいわゆるフォークギター(アコギ)は、フォークやロック、カントリー&ウェスタン、ジャズ、そして近年はフィンガーピッキングに使われる(この場合も一般論であり、クラシックギターを使うフィンガーピッカーもいるし、アーチトップを使うフィンガーピッカーもいる)。
このフィンガーピッキングというのが曲者(といっては失礼だが)で、独立したジャンルなのだが、定義をしようとすると難しい(というか、僕にはできない)。
アコギは(クラシックギターは別として)、歌の伴奏楽器だった。そこから歌を抜いて、独立させたのがフィンガーピッキングであり、ソロギター(独奏)を基本としている(これだけの説明ではまったく不充分なのだが)。
で、フィンガーピッキングにもクラシック系、フォーク・ポップス系、ブルーズ系、ジャズ系といった流派(?)があって、なかなか多彩である。昔はラグタイムといっていたブルーズ系のソロギターも今はフィンガーピッキングに分類されているようだ。
かつて一世を風靡したニューエイジ・ミュージックの元祖ウィンダム・ヒルのウィリアム・アッカーマンはフィンガーピッキングのジャンルに入らないらしいが、同じウィンダム・ヒルのマイケル・ヘッジスからフィンガーピッカーは奏法面で大きな影響を受けている。
1960年代に流行ったギター・インストルメンタルの『クラシカル・ガス』などはフィンガーピッキングだと思うが、どうなんだろうか。もっと古いチェット・アトキンスはフィンガーピッキングの元祖と崇められている。ポール・サイモンがサイモン&ガーファンクル時代に弾いていた『アンジー』(ローリング・ストーンズの曲とは別です)はフィンガーピッカーのスタンダード曲になっている。
フィンガーピッキングのもうひとつの特徴として、エレアコを使うプレイヤーが多く、マイクを積極的に活用していることが挙げられる。単に音を増幅させるのではなく、演奏にマイクの機能を生かすのだ。ホールでのPA設備と技術が向上したこととマイクそのものの性能が向上したことで、こういう傾向になってきたのだろう。さまざまなエフェクターを使って、ギターサウンドをカラフルにしているのもエレアコならではの技である。
ただし、昔ながらのマイクを内蔵していないアコギを使っているフィンガーピッカーもいる。何度もいうように、多様多彩な世界なのである。
ただ、僕はフィンガーピッキングには結局のめりこむことがなく、それぞれの元の音楽、すなわちクラシック、ジャズ、ブルーズ、フォーク、そして冒頭に記したようにバロック音楽を相変わらず聴きつづけている。
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