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◆第89回 オルガンと弦と声の響き (24.January.2005)

パイプオルガン・プロムナードコンサート2004 vol.4
ヘンデルのクリスマス・コンサート
2004年12月23日(午後5時から) 盛岡市民文化ホール 小ホール

 このプロムナード・コンサートはパイプオルガンを「扉」に、クラシック音楽への道をひらく画期的な活動のひとつといっていい。
 どこが画期的か。
 盛岡市民文化ホールには吉田愛さんというプロの専属オルガニストがいる。その吉田愛さんと地元の音楽団体との共演によるコンサートだったのである。

 共演した音楽団体は、(かつては室内楽の殿堂と呼ばれた)カザルスホールでの演奏経験もある弦楽合奏団バディヌリと、30年のキャリアを持つア・カペラ(無伴奏による合唱)合唱団コール・ネネムだ。
 クリスマスの雰囲気にふさわしい曲目をご覧ください。

@ G.F.ヘンデル(1685-1759): 「水上の音楽」より ホーンパイプ
A G.F.ヘンデル: オルガン協奏曲 ヘ長調、 アレグロ、アンダンテ、アダージョ、アレグロ
B J.アルカデルト(ca.1505-1567): 「純白で美しい白鳥」
C O.ラッスス(ca.1532-1594): 「聞け、良い話を」
D G.F.ヘンデル: 「メサイア」より
  シンフォニア
  「かくして主の栄光は」
  「獅子がわれらに生まれたもうた」
  パストラル・シンフォニー
  「ハレルヤ」
演奏:@吉田愛さんのパイプオルガン/A吉田愛さんのポジティフオルガンと弦楽合奏団バディヌリ/B&Cコール・ネネム/D吉田愛さんのポジティフオルガンと弦楽合奏団バディヌリ/コール・ネネム

 名オルガニストでもあったハイドンの作品に、コール・ネネムが得意としているルネサンス音楽(あいにく、知らない作曲家ばかりだ)というプログラムだ。
 パイプオルガンとポジティフオルガンの聴き比べができたことに加えて、レクチャーコンサートをつづけていらっしゃる吉田愛さんのお話も面白かった(同ホールにはさらに小型のレガールというオルガンもあり、このお披露目の演奏も楽しかったのを思いだす)。
 弦楽合奏団バディヌリの演奏についてはこれまでに何度も書いてきたが、新たに強く印象に残ったことがあるので記しておきたい。 今回は13名のメンバーが参加したので、レギュラーの半数くらいだろうか。当然、そのぶん響きが薄くなるはずなのに、あまりそれを感じさせなかった。
 しかし、何よりも感嘆させられたのはその音色だ。「バディヌリは美しい音を出していたのか」と初めて気がついた( 己の不明を羞じるばかりだが)。 いや、おそれいった。

 コール・ネネムはふだんは伴奏をつけずに歌っているが、このコンサートに先立って矢巾町でおこなわれた「田園ハーモニー・コンサート2004」にも出演して「メサイア」からの数曲に参加しているからまったく経験がないわけではない。それでも、今回は大きなチャレンジだったのではないだろうか。それは吉田愛さんや弦楽合奏団バディヌリのメンバーにもいえる。
 結果は大成功だった。この企画を実現させるには大変な苦労もあったと思うが、心から敬意を表したい。

 吉田愛さんが奏でる二種類の伝統的なオルガンと弦楽合奏団バディヌリの美音、ふだんはア・カペラ(しかも、たぶん純正調)で歌っているコーム・ネネムのそれぞれの響きが融合し、時間のたつのを忘れさせてくれた。地に足をつけた活動をつづけている3者の音楽が我々聴衆を「ここではないどこか」に連れていってくれた。本当にいいコンサートだった。

 今回はチャリティコンサートで、入場料はとらず、1口1000円の寄付を求める形をとった。ただし、入場整理券が必要だった。350席のところに倍以上の応募があったという。無料(実質的には1000円)だったことよりも、地元の音楽団体とプロの演奏家の共演に期待が集まったのだろう。その気持ちは曲ごとの盛大な拍手や、アンコールを求めて鳴りやまぬ拍手にもあらわれていた(アンコールはなかったが)。

 なお、ポジティフオルガンというのは、小型のパイプオルガンだ。「ポジティフ(positive)」とは室内用といった意味で14、5世紀に貴族の館で愛用された。小型と書いたが、実はサイズには決まりがあるそうで、映画「インディ・ジョーンズ」にも出てきた「聖櫃」(モーゼの十戒が収められていた箱)と同じ大きさに作られているという。教会で用いられていたパイプオルガン同様、キリスト教と深い関わりがあるわけだ。

 それにしても、僕が二十代のころまで、パイプオルガンはレコードでしか聴けない貴重な「音」だった。ところが、80年代に公共ホールが続々と設立されていく際、地方都市のホールにパイプオルガンは必需品のようになり、珍しいものではなくなった。ところが、多くのパイプオルガンは「宝の持ち腐れ」となっていて、パイプオルガンそのものはもう珍しくなくなったものの、それが演奏されることはめったにないという事態を招いている。そのあたりのことは『癒しの楽器パイプオルガンと政治』(草野厚著/文春新書)に詳しい(盛岡市民文化ホールにあるガルニエのパイプオルガンの構造上と選定過程の問題点なども指摘されている)。
 盛岡市民文化ホールのパイプオルガンと盛岡市民はひじょうに恵まれている。同ホールを運営する盛岡市文化進行事業団は、上記のようにレクチャーコンサートや講座をひらくなど活用しているからだ。

 ところで、過日、財団法人地域創造(JAFRA)の第1回JAFRAアワード(総務大臣賞)に、盛岡劇場が選ばれた。東北では唯一の受賞だ。盛岡劇場が行なっている「演劇をキーワードに集う市民の広場になろう」をコンセプトに、「こども演劇ワークショップ」、「演劇基礎講座」、「高校生のための舞台技術講習会」、「八時の芝居小屋」など多彩な事業が評価されたわけで、大変、喜ばしい。盛岡市文化振興事業団は演劇活動に関しては定評がある。
 上記プロムナード・コンサートのような市民参加型の事業展開がクラシック音楽の普及に有効なのは改めていうまでもない。演劇活動で培ってきたノウハウをぜひ音楽にも活かしてほしい。

◆このごろの斎藤純

〇眠い。猛烈に眠い。毎日、午後になると睡魔に襲われる。何かの病気ではないかと疑いを持つほど眠い。ところが、たまたま必要があって去年の今ごろの日記を読みかえしたら、何と毎日「今日も眠かった」と書いてあるではないか。なんのことはない、正月ボケなのである。
〇盛岡市教育委員会からお知らせがあります。〈文化会館・スポーツ施設の運営について考える会〉が平成17年1月30日(日) 13:00〜16:00、キャラホール都南文化会館(永井24-10-1 TEL019-637-6611)を開催します。

「市では、日ごろ多くの市民に利用されている文化会館・スポーツ施設について、広く市民から意見をお聴きし、今後の施設運営のあり方などについて参地図考とするために考える会を開催します。
この会は、文化会館・スポーツ施設を利用して気づいたこと、芸術鑑賞や様々な活動事業に参加しての感想、また、どうすれば施設運営がより良くなるのかなどについて話し合う会です。
利用者をはじめ芸術文化・スポーツに関心ある皆さまの参加をお待ちしています。」                      
<申込み受付>
受付期間は2005年1月17日(月)から1月27日(木)17時まで
申込みは生涯学習スポーツ課まで。電話または電子メールで受付します。
電 話:019−639-9048
メール:edu.sgs@city.morioka.iwate.jp
☆申し込みの際は、@名前A文化またはスポーツ部会どちらを希望するかお知らせください。
主催盛岡市盛岡市教育委員会(〒020-8532 盛岡市津志田14-37-2)
【問合せ先】文化課電話019-651-4111 内線7351.7352

ジャンゴロジー/ジャンゴ・ラインハルトを聴きながら