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◆第93回 アイルランドの古楽を聴く(21.march.2005)

哀愁のケルト ザ・ハープ・コンソート
2005年3月3日(午後7時開演)盛岡市民文化ホール(小ホール)

 アイルランドのトゥールロッホ・オ・カロラン(1670-1737)の作品を中心にその周辺の音楽を、アンドルー・ローレンス=キング率いるザ・ハープ・コンソートの演奏で聴いた。
 僕はカロランの名を目にするのも初めてだったが、アイルランド最大の作曲家と呼ばれているそうだ。カロランはアイルランドの伝統音楽(というのは、ケルト音楽と教会音楽の両方を含む)にイタリア的コンチェルトの要素とフランス舞曲の要素を与え、洗練された音楽にした。

 洗練されたとはいえ、こんにちの我々の耳で聴けば、充分に素朴な音楽だ。同時代のマラン・マレやフランソワ・クープランと比べても、古臭いというか土俗的というか、要するに垢抜けない。ただし、それが魅力なのである。
 不思議なことに、どこか日本風の旋律もたくさん混じっていて、親しみを覚える。
 明治期に洋楽が導入された際、アイルランド民謡なども入ってきた。それが洋楽の定着と共に「昔からある我々の音楽」となった。たとえば有名なところでは『蛍の光』がある。あの曲は『Auld Lang Syne』というスコットランド民謡だ。
 が、スコットランド民謡やアイルランド民謡があたかも「昔からある我々の音楽」として根付くには、やはりそれなりの理由があったように思う。それらは初めて聴く曲なのに、懐かしく感じられるというように日本人の音感にマッチしていたのだ。

 しかし、音楽は風土と切っても切れない関係がある。スコットランドはともかく、アイルランドの(どこか荒涼とした)自然環境は、日本のそれとは大きく異なる。メンタリティもずいぶん違うような気もする。にもかかわらず、なぜその音楽には親しみを感じるのだろうか。
 実はそれが音楽の力なのだと思う。

 ザ・ハープ・コンソートについては下にプロフィールを掲載したが、使われている楽器のほとんどが初めて目にするものばかりだった。
 僕が正式な名前を知っていたのはヴィオラ・ダ・ガンバだけで、あとは「ギターのような」とか「小さなハープのような」とか「角笛のような」としかいいようがない。古楽器というよりも、民俗楽器である。それをメンバーはとっかえ、ひっかえ演奏する。

 アンドルー・ローレンス=キングが弾く鉄弦を張った小さなハープのような楽器はプサルテリウムといい、9世紀ごろから(ギリシャ時代にはすでに用いられていたという説もある)使われ、12〜15世紀にヨーロッパ各地に普及したという。15世紀以降に演奏されなくなったのは、チェンバロにその座を奪われたからだろう。チェンバロはプサルテリウムに鍵盤を付け、弦をはじく機構を組み込んだものなんですね。

 僕が一番気にいったのはコルネットだ。木(あるいは骨かもしれない)の筒に縦笛のように穴をあけただけの管楽器で、トランペットやコルネットのように唇のアンブシュアで音を出す(縦笛のように吹けば音が出る仕組みにはなっていない)。音色はとても温かな(かなり上手な演奏者が吹くような)コルネットである。僕もやってみたいなあ、と思った。

 カロランはアイリッシュハープを手に、各地を遍歴した吟遊詩人だった。当時の音楽はダンスはもちろん、詩や物語と密接に結びついていた。だから、演劇的な要素もある。
 実際、この日のコンサートでは短いオペラ風の曲があったし、ダンスあり、音楽付きの寸劇ありというバラエティぶりで、何だか旅先でたまたま「村祭り」に遭遇したような気分を味わった。他のお客さんたちも僕と同じように感じていたことは、その反応からわかった。おそらく初めて聴くであろう音楽を、客席は一体となって心から楽しんでいた。
 客席の反応が素晴らしかったことは特筆しておきたい。客席の反応は(入場者数よりも)その土地の文化の成熟度をあらわすと僕は思っている。

 曲が短く、演奏曲目が多いので今回は割愛させていただきました。演奏家については下記をご参照ください。

●プロフィール
ザ・ハープ・コンソート

 コンソートとは多様なスタイルのバロック、ルネサンス、中世音楽の即興演奏を中心に活動する音楽家のグループ。最初のハープ・コンソートが誕生したのは17世紀、イングランドのチャールズ1世の宮廷である。
 多くの音楽家が同種の楽器を演奏する弦楽合奏団(同じ頃成立)と異なり、異種の独奏楽器の結集であるコンソートは、ハープ、リュート、鍵盤楽器、弦楽器をカラフルに組み合わせて全く新しい音を創り出した。
 17世紀のコンソートに倣って、ザ・ハープ・コンソートも通奏低音(バッソ・コンティヌオ)の撥弦楽器と弓奏楽器を中心に、国境を越えた音楽家チームとして多彩な音色を創り出している。
 楽譜を使うが、奏者たちは時代と国に合わせて楽器を持ち替え、スタイルを変えて和音やメロディーを即興で演奏しなければならない。ザ・ハープ・コンソートはどのような曲の演奏でも、それぞれの曲固有のカラーを大切にしながら自在な即興演奏を繰り広げる。 プログラムは中世の戯曲や独唱曲、バロック・オペラをはじめ、古楽器のための新曲から華麗な舞踊組曲まで、多岐にわたる。17世紀のスパニッシュ・ダンス、アーリー・アイリッシュ・プランクスティ(3拍子のハープ曲;それに合わせて踊るダンス)、ドイツ・バロック・ダンスは世界中の聴衆を魅了している。
 デビューCD「ルス・イ・ノルテ(ともしびと北極星)〜17世紀のスペインと南米の舞踊音楽〜」は全世界で大ヒットし、ディアパゾン・ドール賞(フランス)と、アマデウス誌のレコード・オヴ・ジ・イアー(イタリア)などを受賞。オーストラリアでは5週連続でクラシック・ヒットチャートのトップを占めた。2001年ハルモニア・ムンディと専属契約を結ぶ。

 
アンドルー・ローレンス=キング(音楽監督/アイリッシュハープ、プサルテリウム)

 バロック・ハープの名手、イマジネーション豊かなコンティヌオ奏者として世界の古楽演奏をリードする。自らハープ、オルガン、プサルテリウムなどの楽器を演奏しながら、ミラノ・スカラ座、シドニー歌劇場、ベルリン・フィルハーモニー、ウィーン・コンツェルトハウス、カーネギーホールなど、世界の檜舞台でバロック・オペラやオラトリオを指揮し、高い評価を受けている。
 セント・ピーター・ポート・ガーンジー大聖堂教区教会の聖歌隊長として音楽家のスタートを切り、ケンブリッジ大学に学んだ後、ロンドン・アーリー・ミュージックセンターで研鑽を積む。1994年、ザ・ハープ・コンソートを結成。初期バロックのオペラとオラトリオを専門的に演奏しているフィレンツェのアンサンブル「ロム・アルメ」の首席客演指揮者でもある。

 

クララ・サナブラス(ソプラノ、バロック・ギター)
スティーヴン・プレイヤー(踊り、ダヴリンギター、バロックギター)
ジェイン・アハトマン(ヴィオラ・ダ・ガンバ、フィドル)
イアン・ハリソン(バグパイプ、ショーム、コルネット、ホイッスル)
ミヒャエル・メツラー(パーカッション

◆このごろの斎藤純

〇春になるのは嬉しいけれど、花粉症持ちなので辛い季節でもある。ところで、何の治療もしないのに「いつの間にか花粉症じゃなくなった」という方がいた。うらやましい。僕にもそういう奇跡が起きないものか。
〇今週は何と無謀にも、モリゲキ・ライヴ(3/23水曜日午後7時開演・盛岡劇場タウンホール)に出演する。昨年の文士劇に出演したバンドに、スペシャルゲストを加えた内容で、ま、ひとつのお祭りだと思って聴きにいらしてください。
・演奏曲目(予定)
 01)昨日にあいたい:ワイルドワンズ/大塚富夫(岩手放送アナ)
 02)恋は熱烈:山本リンダ/南野真紀子(南蛮バンド)
 03)キッスは目にして:ヴィーナス/南野真紀子(南蛮バンド)
 04)結婚しようよ:吉田拓郎/大塚富夫
 05)赤色エレジー:あがた森魚/加藤久智(岩手放送アナ)
 06)機嫌をなおしてもう一度:望月浩/高橋克彦
 07)アイビー東京:三田明/高橋克彦
 08)赤いヘルメット:美樹克彦/高橋克彦
 09)恋のダウンタウン:平山三紀/村松文代(岩手放送アナ)
 10)少女恋歌:浅田美代子/小林ゆり子(テレビ岩手アナ)
 11)恋の色・恋の味:じゅんとネネ/村松文代&小林ゆり子
 12)東京ワッショイ:遠藤賢司/菊池幸見(岩手放送アナ)
 13)ヴァケーション:弘田三枝子/全員
 前売り800円(当日1000円)残部僅少。

ライヴ・イン・トーキョー2001/モレレンバウム・坂本龍一を聴きながら