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◆第94回 踊るヴェルサイユ(4.april.2005)

東京文化会館レクチャー・コンサート
〈ヴェルサイユ〉踊るヴェルサイユ----「王の踊り」
2005年3月13日(日) 15時30分開演 東京文化会館小ホール

 「太陽王」ことルイ14世(1643-1715在位)王朝下のヴェルサイユ宮殿で聴かれていた音楽と、踊りを再現するレクチャーコンサートに行ってきた。これが、超おもしろかった(と、若い人ぶってみたりして)。いや、ホント、S席3500円では申し訳ないくらいの中身だったのです。
まずは曲目から。

第1部
@ J.B.リュリ:「町人貴族」から“トルコの儀式のための行進曲”
A M.マレ:「ヴィオール曲集第2巻」から“スペインのフォリア”
B J-F.ルベル:「四大元素」から“カオス”
C M.ランベール:「愛する人の影」

 

第2部
DJ.B.リュリ:「アルミード」から
i.プロローグから序曲
ii.プロローグからメヌエットとガヴォット
iii.2幕4場のアリア1と2
iv.4幕2場のガヴォトとカナリ                
v.5幕2場のパッサカリア
vi.5幕5場のフィナーレ

 バロック・フルートの第一人者である前田りり子さんのお話と当時のヴェルサイユ・ピッチ(A=392Hz)に合わせた古楽器(ヴァイオリン=桐山健志/大西律子、ヴィオラ=深沢美奈、ヴィオール=平尾雅子/品川聖、チェンバロ=平井み帆)とソプラノの原雅巳さんによる演奏で、15世紀から18世紀にかけてのヨーロッパの舞踏の第一人者である市瀬陽子さん(それに鶴見未穂子さん、井上陽集さん)がバロック・ダンスを再現した。

 舞踏とバロック音楽の密接な結びつきについては『栄華のバロック・ダンス 舞踏譜に舞曲のルーツを求めて』(浜中康子著/音楽之友社)』などで知っていたものの、実際に見聞するのは初めてだ。舞踏譜というのはステップ(足の運び方)を表記したものだ。
 前田さんのお話では、この足運びが日常生活にまで及んでいて、歩き方や立ち姿を見れば身分、生まれ育ちが一目瞭然だったという。実際、当時の王宮のようすを伝える絵画を見るとこのステップに従ってポーズをとっている。という具合にヴェルサイユ宮殿でのルイ14世の生活ぶりや当時の習慣などのスライド映像を交えたレクチャーがわかりやすく、おもしろかった。前田さんのような方からヨーロッパ史を教わっていれば、僕も少しは成績がよかったに違いない。

 さて、リュリだ。
 ヴェルサイユ宮殿といえばルイ14世、ルイ14世といえばジャン・バティスト・リュリなのである。イタリア(フィレンツェ)の貧しい粉屋の息子だったリュリ(1632-87)はルイ14世に認められて、〈王の器楽音楽の作曲家〉(53)→〈王宮の音楽総監督兼作曲家〉(61)→フランスに帰化→〈王家の楽長〉(62)と出世街道を登りつめた。
 才能も豊かだったが(それは残された楽曲の素晴らしさが証明している)、王の寵をかさに権謀術数をほしいままにした野心家でもあった(と伝わっている)。
 肖像画をみると、いかにもラテン系の二枚目で、実際、かなりもてたそうだ。しかも、女性ばかりでなく、リュリは男も好きだったので、これにはルイ14世も苦言を呈した。結婚は宮廷歌謡の作曲家ランベールの娘としているが、それも出世のためだったといわれている。

 @は劇作家モリエール(この人が急死したときは、その人気に嫉妬したリュリの仕業だと噂されたそうな)との最高傑作といわれるコメディバレエ(お芝居と踊り、歌、衣装と舞台セットなどが一体となった総合芸術)からの1曲。
 ルイ14世は大変な音楽好きで、しかも浪費家だった。一泊二日かけて上演されるコメディバレエもあったそうだ。その際、ルイ14世も出演し、踊った。

 Bは、不協和音でカオスを表現していた。まるで前衛音楽のようで驚いた。バロックは優雅な音楽と思われがちだが、こういう実験的な試みもあったんですね。ルベルより20歳ばかり年上のビーバーに「バッテリア(戦争)」という曲があり、これを初めて聴いたときは近代以降の作品だと思った。バロックはBGMなどに安易に使われるが、ちゃんと聴けば奥行きも幅も高さもたっぷりある音楽なのだ。

 前回につづいて古楽器による音楽を楽しんだわけだが、日々、いろんなことに追われた生活をしているから、こういう音楽に惹かれるのかもしれない。ましてオートバイなんて野蛮な乗物(これは卑下しているのではなく、それが魅力でもある)を乗り回していると、それ以外の時間は、耳にも心にも平穏なものを求めるようになる。

 特筆しておくべきことがある。花王(株)香料開発研究所がこの日のためにつくった「王の踊り」という香水を滲みこませた羽がオマケに付いていた。視覚・聴覚・嗅覚が三位一体となったコンサートを僕は初めて経験した。

 ちなみにプログラムに楽曲解説(これが簡潔ながら読み応えもある)を書いているのは企画・主催した東京文化会館事業課の中村よしき氏である。立派な公共ホールは全国津々浦々にできましたが、肝心カナメの中身のこととなると(残念ながら)東京と地方では格差が歴然としているなあ、と改めて感じたしだいです。

◆このごろの斎藤純

〇おかげさまで「高橋克彦とスーパー南蛮バンド」ライヴを華々しく、かつ賑々しく終えることができました。これも実は高橋克彦さんが「エレキ歌謡」について語ったわけで、ある意味、レクチャーコンサートでしたね。
〇アンケートを見ましたが、評判も上々でした。特に村松文代さんと小林ゆり子さんによる「ジュンとネネ」は「あぶない雰囲気」をかもしだして大好評でした。
〇ただ、僕は(自分でも信じられないような)ミスを連発したので、ひとえに日頃の鍛練不足であると猛省し、日夜、ギターを手にしていようと決心したしだい(そんな暇あったら原稿書けよな、という罵声が聞こえてきそうですが)。
〇チケットが手に入らないという怒りの声も届いています。すみませんでした。どうやら第二弾もありそうなので、そのときは早めにお買い求めください(今回もはじめのうちはまったく売れてなかったんですよ)。
〇防衛策が功を奏しているのか、まだ本格的な春が到来していないおかげなのか、花粉症の症状があまり出ない。と油断していると大変なことになるので、出かけるときは眼鏡とマスクが必需品だ。さらに髪への花粉吸着を防ぐために帽子もかぶると、まるで銀行強盗のように見えて具合が悪い。

プレリュードと組曲/花岡和生(リコーダー)を聴きながら