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◆第98回 オーレ! アミーゴ/ギターを聞く その7 (30.may.2005)

ビセンテ・アミーゴ・コンサートin北上
2005年5月23日(月) 北上市文化交流センター さくらホール大ホール 開演19:00

 しなやかな指で奏でられるギターが、あるときは突き刺さるように(突き刺さり方が気持ちいい)、あるときは甘く包みこむように響く。久々に熱いライヴを満喫した。

 ビセンテ・アミーゴは「パコ・デ・ルシアの後継者」と呼ばれたりする。パコ同様、フラメンコの枠にとどまらず、幅広い音楽活動をしているからだ。もちろん、パコと共演もしている。かつてジプシーキングスを「コマーシャリズムに乗りすぎている」と批判した「うるさ型」のパコが認めているのだ。
 
 ただし、ビセンテはパコの模倣者ではない(そうだったら、パコは認めなかっただろう)。やはり、感覚が若いし(パコは47年生まれ、ビセンテは67年生まれ)、パコより洗練されてもいる(洗練はときとして脆弱さを感じさせるので、必ずしも手放しに褒められることではないのかもしれないが、僕は洗練されているほうが好き)。5年ぶりの新作「音の瞬間(とき)」(5/25発売)は彼のルーツであるフラメンコをより明確かつ濃厚に打ち出した意欲作だ。

〈演奏曲目〉

@ 月の小径
A メッセージ
B マヌエル
C 真実の野
D アルコ・バホのタンゴス
E シリアと時
F 音の瞬間
G デミパティ
H ロカマドール
I マルコスへのボレロ
J オリエンテ・メディテラネオ
アンコール 魂の窓

ギター:ビセンテ・アミーゴ
第2ギター:ホセ・マヌエル・イエロ
パーカッション:パキート
パーカッション&ヴォーカル:パトリシオ・カマラ
ベース:アントニオ・ラモス
カンテ:ブラス・コルドバ
コンセルティーナ:アリエル・エルナンデス

 カンテはヴォーカルのこと、ベースはエレクトリック・ベース使用、コンセルティーナはバンドネオンのような楽器らしいが、クレジットと違って実際はキーボード(ローランド製)を弾いた。ビセンテのギターはマイクでひろい(内蔵マイクではない)、エコーをかけていた。パット・メセニー(パットもビセンテを高く評価している)風のアレンジの曲ではパトリシオ・カマラがヴォーカル(スキャット)で大活躍だった。エレクトリック・ベースもキーボードも抑制がきいていて、あまり出しゃばらず、あくまでもビセンテのギターに主導権があった。

 メローなフュージョン風の曲でも、やはりフラメンコがちゃんと聴こえてくる。これはかなわないな、と思う。血で演奏しているのだから。
 フラメンコは、ひとくちで言うなら「迸る情熱の音楽」だ。バンド編成ではあるけれども、基本的にはビセンテのギターが全体を引っぱっていく。
 ものすごいスピードでくりだされる単音のフレーズとアルペジオ、そしてフラメンコ独特の「ジャカジャカジャッ」という超高速ストロークが見物(聴き物)。和音をかき鳴らすストロークにもラスゲアードとかチョルリターソとかセコなどといろいろある(らしい)。それらを使い分け、組み合わせるわけだ。打楽器的なサウンドも出す。

 ギターの表現力の限界を試すかのような演奏が生む、その場のエネルギーがすさまじい。その激しさから我々は「生の哀しみ」のような感情も受けとるのだから不思議だ。文句のつけようのない(もともと文句をつける気などさらさらないのですが)熱演だった。

  ところで、今回のビセンテ公演は国内4箇所(下記参照)。激しい取り合いだったと思うけれど、さくらホールはよく獲得してくれた。このコンサートを楽しんだ聴衆にかわって、この場でお礼申し上げます。地方にいるとなかなかこういうクォリティの高いライヴに接する機会がないものだと痛感しているので、本当に嬉しかった。
 カッコ内はS席の料金である。さすがにオーチャードホールは企業が経営するホールなのでA席5500円からSS席7500円となっていて、公共ホールと比べると割高だ。
 京都が安いが、さくらホールも6000円のチケットにはホテルシティプラザ北上の1500円分のお食事券が付いてくるので実は一番安いことになる。
 もうひとつ、察しのいい方はお気づきのことと思いますが、一般的に公共ホールは(オーチャードホールもですが)月曜日は休館日です。さくらホールは月曜日も開館している。ビセンテのコンサートが実現できたのはそのおかげかもしれません。
 公共ホールに民間の経営感覚を取り入れる(それどころか、民間に経営を任せてしまう)という流れが起きているなか、さくらホールは国内でも先駆的な存在といっていい。他館も大いに参考にしていただきたい。

 5月18日(水) 新潟市民芸術文化会館 「りゅーとぴあ」(6000円)
 5月20日(金) 京都芸術劇場 春秋座(5000円)
 5月21日(土) 大阪・ザ・シンフォニーホール (6000円)
 5月23日(月) 岩手・北上市文化交流センターさくらホール
 5月25日(水) Bunkamura オーチャードホール (5500円〜7500円)

◆このごろの斎藤純

〇発売中の「ミステリマガジン」7月号で、自転車ツーキニストの疋田智さんと対談をしています。立ち読みしてください。
〇膝の関節が痛んだり、猛烈な睡魔に襲われたりと体調が安定しない。聞くところによると、5月は夏にそなえて体が「転調」する季節なので、そうなるのだそうだ。
〇お気づきになった方もいるかと思いますが、ブログ「 流れる雲を友に 」をはじめました。うんと個人的な内容です。気長につづけていきたいと思っています。

イデアの街/ビセンテ・アミーゴを聴きながら