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◆第102回 菅野義孝ライヴ[ギターを聴く その8] (26.july.2005)

菅野義孝 -guitar 増原巖 -bassデュオ・ライヴ
2005年7月17日(日) 午後4時から 東和町カフェほうほう

 昨年12月11日、盛岡市内の某所で渋谷毅(ピアノ)と小川実潮(ヴォーカル)のライヴがあった。そのときスペシャルゲストとして登場したのがギタリストの菅野義孝だった。
 「真面目な、いいプレイをするギタリストだ」という噂は耳にしていたが、実際に聴くのはそれが初めてだった。事実、奇をてらったところのないオーソドックスなスタイルの演奏で、実によくスイングする。僕はすっかりファンになってしまい、すぐにCDを買った。
 そのデビューアルバム『INTRODUCING』は、ジェシ・ヴァン・ルーラーの『ライヴ・アット・マーフィーズ・ロウ』や中牟礼貞則の『リメンバランス』(以上の2枚はジャズギターの近年の金字塔だと僕は思っている)、それにジミー・レイニーやウェス・モンゴメリーらが残した名盤と共に、我が家のCDプレイヤーの常連になった。

 そして今春、菅野義孝は2枚目のアルバム『ムーヴメント』を出した。これが何とメルヴィン・ライン(ウェス・モンゴメリーとの共演で知られるオルガニスト)、グラディ・テイト(やはり、ウェスとの共演で名盤を残したドラマー)との共演だ。録音はもちろんニューヨーク。当然、このアルバムも我が家のCDプレイヤーの常連になっている。
 レコーディング活動はもちろんのこと、ライヴスケジュールもぎっしり(ホームページをご参照ください)の菅野義孝は、今、乗りに乗っているといっていい。今回はベースの増原巌とのデュオで、下記のとおり岩手県内のライヴツアーをおこなった。

■7/15(金) 一関市 Basie
■7/16(土) 盛岡市 サーカス
■7/17(日) 東和町 カフェほうほう(昼夜2回)

 僕は東和町のカフェほうほうで聴いた(2回公演のうちの1回目)。 ギブソン・スーパー400(1969年製、ヴァイオリンでいえばストラディバリウスのような名器)の「鳴り」を活かしたナチュラルなトーンを聴いただけで「ああ、菅野さんのギターだな」とわかる。昨今、こういうギタリストがめっきり少なくなった(音を聴いただけで、バーニー・ケッセルが弾いているのかグラント・グリーンが弾いているのかわかったものだが)。

 今回もオーソドックスなプレイが光った。オーソドックスというと凡庸と混同されがちだが、決してそうではない。新しいリズムや特殊奏法を取り入れるギタープレイヤーが少なくないが、オリジナリティというものは、そんなもので簡単に得られるものではない。結局、底が浅いために飽きられるのも早い。
 菅野義孝のギターが「真面目」と評されるのは、ジャズに対して取り組む姿勢の深さゆえだ。
 もっとも、あんまり生真面目すぎると聴くほうもつらい。菅野義孝は楽しむ術を心得ている。だから、聴いている我々も楽しめる。スムースでありながら、緩まない。この資質は大切にしたい。ボサノヴァの「ウェイヴ」、スタンダードナンバーの「ミスティ」、「星に願いを」、「テイク・ジ・Aトレイン」、「マック・ザ・ナイフ」などお馴染みの曲を聴いているうちに1時間半が瞬く間に過ぎてしまった。

 ところで、東和町は菅野義孝の郷里だ。郷里の人々への特別なプレゼントとして、ベースの増原巌をフューチャーした「ジャンゴ」を演奏した。このときのコメントが印象的だった。
 「ツアー前から準備をしてきたんですが、自信がなくて、結局どこでも演奏しませんでした。が、今日はやります」
 というわけで、「ジャンゴ」は初のお披露目となった。
 増原巌もいいベースを聴かせてくれた。二人で音楽をつくりあげていくライヴならではの緊張感が心地よく、濃密なジャズを味わうことができた。

◆このごろの斎藤純

〇二戸と九戸の境にある折爪岳に行き、ヒメホタルを見てきた。以前から誘われていたのだが、ヒメホタルの事情となかなかタイミングが合わず、ようやく実現した。大変な数に驚くと共に、ヒメホタルのはかなくも力強い光に心打たれた。
〇書店に拙著『モナリザの微笑』が並びました。これは5年前にフジテレビで同名ドラマ化しています(江口洋介、葉月里緒奈、、松本幸四郎らが出演)。が、中身はまったく違います。なぜか−−それは文庫解説で明らかにされています(笑)。モナリザといえばルーヴルの(というよりもフランスの)宝ですが、世界には「こっちのモナリザがホンモノだ!」という絵が何枚もあります。そのうちの一枚が日本に−−というお話です。機会がありましたら、お手にとってご覧ください。

『ダイナミック・デュオ』/ウェス・モンゴメリーを聴きながら