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◆第127回 梅雨を吹き飛ばす、爽やかな演奏会(10.july.2006)

『ヴァイオリン・デュオと室内楽 井上静香&篠原智子』
2006年6月23日 もりおか啄木・賢治青春館 2階展示ホール

 天井が5メートルもあるもりおか啄木・賢治青春館(旧九十九銀行)の2階展示ホールはとてもよく響くので、弦楽のコンサートに適している。この日もまるで石づくりの教会の中で聴いているような雰囲気を味わえた。

 井上静香さん、篠原智子さんは小澤征爾&ムスティラフ・ロストロポーヴィチコンサートキャラバン(バックナンバー第106回第107回をご参照ください)のメンバーとして岩手県内各地で演奏をしているし、その縁で井上さんは盛岡でコンサートを開いたこともある(バックナンバー第90回をご参照ください)。ぼくとしては「お帰りなさい」という気分で、お二人の演奏を聴いた。

 では、プログラムをご覧ください。

〈第1部〉
[1]ヴィヴァルディ:調和の霊感Op.3-5
         「2つのヴァイオリンのための協奏曲」

〈第2部〉
[2]バルトーク:「2つのヴァイオリンのための44の小曲」より
[3]ルクレール:「2つのヴァイオリンのための6つのソナタ」よりト長調
[4]モーツァルト:オペラ『魔笛』より(2曲)
[5]プロコフィエフ:ソナタOp.56

〈アンコール〉
バルトーク:「2つのヴァイオリンのための44の小曲」より

 第1部は盛岡の弦楽合奏団バディヌリのメンバーからなる六重奏団が共演した。以下はすべてヴァイオリン・デュオ(二重奏)。

 ハンガリーの民俗音楽を研究し、自身の作品にもそれを反映させたバルトークの[2]は、ハンガリーのみならず、スロヴァキア、ルーマニア、ルテニア、ウクライナ、セルビア、アラブの民謡から旋律が取り入れられている。専門書によれば「旋律を取り入れた」というよりも「民謡を編曲した作品」なのだそうだ。
2分程度の短い曲ばかりなので、いろいろなメロディーが楽しめたのと同時に、さまざまな演奏法も楽しめた。[1]とはまったく異なるタイプの曲だし、演奏法も違う。もちろん、音質も。

 ちなみに、ハンガリーはヨーロッパで唯一アジア系民族の国だ。バルトークはベーラ・バルトークと表記されるが、これはジュン・サイトウと同じ英語読みで、本国ではバルトーク・ベーラ(姓名)である。
バルトークには7つの弦楽四重奏曲があり、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲(全15曲)と共にぼくにとってはなくてはならない宝物だ。

 プロコフィエフはヴァイオリンものの作曲を苦手に思っていたそうだが、ま、あのレベルの「苦手」がどういうものなのか、ぼくには到底理解できない(自信があったピアノものと比較すれば、ということだと思うが)。演奏される機会は少ないものの、ヴァイオリン・ソナタもヴァイオリン協奏曲も素晴らしい作品だ。
[5]もあまり聴く機会のない曲だが、プロコフィエフフ自身が「およそ15分間、聴衆を飽きさせない曲」を目指したと言っている。それは実現されている。
[1]や[3]も楽しめたが、ぼくは[2]と[5]に感動した。

 親密な雰囲気の中に、演奏家と聴衆の真摯な緊張感がほどよくバランスし、とても充実したコンサートになった。企画展示中だった中村誠氏の作品(ポスター)もよくマッチしていた。

 実はお二人には、ぼくが所属している田園フィルハーモニー管弦楽団の第3回演奏会で共演をしていただいた。曲は[1]とシューベルトの『未完成交響曲』、モーツァルトの『魔笛』より「序曲」で、[1]ではお二人にソリストとして演奏していただき、他はオーケストラの一員となってもらうという、大変に贅沢な経験になった。
当日、お二人は予定外のアンコールを弾いてくださった。お客さま方にもいいプレゼントになったことだろう。

 田園フィルの演奏会場には、コンサートキャラバンの際にホームステイをしたおうちのご家族もおみえになり、およそ一年振りの再会を喜んでおられた。ぼくは離れたところから「いい光景だなあ」と感激して眺めていたが、こういうつながりが音楽を通してつくられてきたことが素晴らしいと思う。

 有名な音楽家を招いてホールを満員にすることだけが「文化 事業」なのではない。その元となる地域の音楽文化を育むことをおろそかにすれば、どんな大物音楽家のコンサートをひらいても、ただ単に有名人目当てに集まる野次馬が客席を埋めるだけになるだろう。 文化行政は「市民との共働」を最も実現しやすい領域なのだが、まだまだ岩手はこれが進んでいない。そんな中手で、今回のもりおか賢治・啄木青春館コンサートには、見習うべきことがたくさんあるように思う。

◆このごろの斎藤純

〇ツーリング専門誌「アウトライダー」の取材があり、編集者・カメラマン・ホンダ広報部員の諸氏と遠野界隈を旅した。「岩手は素晴らしい」と感激して帰られた。地元の我々が思っている以上に、岩手は素晴らしい素質に恵まれている。ほんの10年前までは価値がなかった(と思われていた)ものが、かけがえのない財産になっているのだ。つまり、ものの見方が大きく変わってきていることを我々自身が学ばなければならない。
〇喉が痛むので病院に行ったら、アレルギーが原因とわかった。春のスギ花粉につづいて、夏も花粉症で悩まされることになった。これも年齢のせいだろうか。

プロコフィエフ:ヴァイオリンソナタ第1番を聴きながら