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◆第128回 ありがとう、紀尾井シンフォニエッタ東京(24.july.2006)

紀尾井シンフォニエッタ東京 矢巾公演
2006年 7月10日 午後6時30分開演

 プラハ放送交響楽団(指揮:ウラディーミル・ヴァーレク)&スタニスラフ・ブーニンのコンサート(2006年7月8日、盛岡市民文化ホール大ホール)が、いささか期待外れの内容でだった。オーケストラが何とも物足りなかったのだ。どうせならブーニン単独のリサイタルを聴きたかった。
 ブーニンの名声で客席は埋まったが、ぼくなどよりずっと造詣の深いクラシックファンの方が「この内容でこの料金はぼったくり」と苦笑していた。ま、憤慨はされていなかったから、及第点ではあったようだけれど。

 その不満をいっきに吹き飛ばしてくれたのが、紀尾井シンフォニエッタ東京だった。マリオ・ブルネロ(第8回チャイコフスキー国際コンクールで優勝、批評家特別賞、聴衆賞を受賞)を指揮者、ソリストに迎え、聴き応えのあるプログラムが組まれた。

[第1部]
〈1〉プロコフィエフ:交響曲第1番 ニ長調Op.25「古典交響曲」
〈2〉シューマン:チェロ協奏曲 イ短調Op.129
[第2部]
〈3〉チャイコフスキー:弦楽セレナーデ ハ長調Op.48
[アンコール]
   チャイコフスキー:弦楽セレナーデから第2楽章

 〈1〉は昨年、オルフェウス室内管弦楽団でも聴いている(第99回参照)。好きな曲は、何度聴いてもいい。一方、〈2〉はあまり好きではなかった(シュタルケルやシューマンものの演奏に情熱を傾けているスティーヴン・イッサーリスなどのCDを持っているのだが)。
 ところが、ブルネロのシューマンは何だか一味違っていて、最後まで引きつけられっぱなしだった。そもそも、イタリアのチェリストとシューマンという組み合わせが異質なような気がしていたが、これは誤った先入観でした。
 今後、この曲を少し聴きこんでみようという気にさせられた。

  この曲のとき、ブルネロはいわゆる「弾き振り」(演奏しながら、指揮をすること)をした。弾き振りだと限界があるわけで、実はコンサートマスター(豊嶋泰嗣)が代わってリードする。こちらも弾き振りなので、身振りを大きくしたり、少し早めに次の動きに備えるなど、見ていて楽しかった。

 この日の白眉は〈3〉だった。これを聴いているとき、ぼくはもうそこには存在していなかった。紀尾井シンフォニエッタ東京が奏でる音楽の国に運ばれてしまっていた。
 曲が終わったとき、まだ終わってほしくないという思いと同時に強い畏怖の念にとらわれ、しばし座席の上で動けなかった。
 アンコールがまたさらに密度が濃く、甘く、切ない演奏で、この世のものとは思えない響きに包まれた。
 「世の中にはこんな凄い演奏があるんだな」
 後ろの席から、そんな感想が聴こえてきた。同感だった。

 なお、紀尾井シンフォニエッタ東京のメンバーとブルネロによる弦楽講習会がコンサートの前に行なわれた。うかがうことはできなかったが、講習を受けた方が「目からウロコが落ちるような指導だった」と感激していた。
 本番の熱演もさりながら、地元からの要請に応じてくださった紀尾井シンフォニエッタ東京に心から感謝の言葉を贈りたい。
 また、メンバーの中に2004年のコンサート・キャラバンの中心メンバーだった白井圭(ヴァイオリン)さんの姿があった。とても嬉しかった。

◆このごろの斎藤純

〇発売中のツーリング専門誌アウトライダーに、遠野紀行を書いています。こういう機会を与えられるたびに、岩手を宣伝するようにつとめています。お手にとってご覧いただければ嬉しいです。

ソリチュード・オン・ギター/バーデン・パウエルを聴きながら