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◆第131回 祝! 第2回しずくいし夏の音楽祭(4.september.2006)

 

 NHK交響楽団に所属し、クァルテット(弦楽四重奏)などの室内楽にも熱心に取り組んでいるヴァイオリニスト林智之さんの演奏を聴くのは昨年の11月以来だ。通算して、たぶん4回目だと思う。いずれも雫石町極楽野にあるララ・ガーデンでのコンサートだ。

 今回は林さん以下、臼木摩耶さん(ヴィオラ)、富沢由美さん(ヴァイオリン)、西山健一さん(チェロ)というクァルテットと、鈴木理恵さんのピアノで、25日から27日までの三日間、4つのコンサートが行なわれた。ぼくは27日のファイナル・コンサートを聴いた。

 〈プログラム〉
[1]モーツァルト:弦楽四重奏曲 第17番 変ロ長調「狩り」K.458
[2]シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 Op.44

 今年は音楽家を志す学生のためのミュージック・キャンプも行なわれた(22日〜27日)。宿の手配など林さんは事務局兼指導者と多忙を極めた。その林さんとララ・ガーデンを補助したのが、ララ・ガーデン・サポーターズとぼくが勝手に呼んでいるボランティア・スタッフのみなさんである。彼らはララ・ガーデンのコンサートのたびに宣伝活動から受付、駐車場整理係などを自ら率先してなさっている。実に素晴らしい、と林さんも感激していた。
 そのミュージック・キャンプに参加した受講生(5歳、高校生、大学生)によるそれぞれの成果発表の演奏に続いて、上記が演奏された。

 [1]はモーツァルが私淑したハイドンに献呈した全6曲からなる作品群(ハイドン・セットと呼ばれる)のうちの一曲。モーツァルトはハイドンを自宅に招き、この試演を聴いてもらっている(モーツァルトはヴィオラを弾いたのだろうか)。ハイドンはモーツァルトの父に「ご子息は私の知る限り最も偉大な作曲家です」と絶賛した(なにしろ息子自慢の父親だったから、さぞ鼻が高かったことだろう)。
 「狩り」というのは後世の人が勝手につけた名前だそうで、モーツァルト自身はそういう命名はしていない。第一楽章の旋律が、貴族たちの狩りの際のホルン(獲物を追うために用いたらしい)に似ているので、そう呼ばれるようになった。

 このごろは歴史的演奏というのか、さくさくと弾く(モーツァルの時代のヴァイオリンは、特性が今と違っていた。その特性を再現すると、さくさくっという印象になる)モーツァルを聴く機会が多いが、この日は抒情豊かにたっぷり歌うモーツァルトを聴くことができた。
 ララ・ガーデンで弦楽四重奏を聴いていると、これこそ贅沢の極みだと改めて思う。

 [2]はクァルテットにピアノが加わったピアノ五重奏(クインテット)で、メンデルスゾーンが初演したという。だから、というわけでもないと思うが、あちこちにメンデルスゾーンっぽいところがある。
 弦を使ったシューマンの室内楽作品は渋めなのだが、この曲は華麗だ。林さんに代わって第一ヴァイオリンをつとめる富沢さんが「エス・ドゥアーは華やかな感じがします。第2楽章はツェー・モールで、これは葬送曲などに多い調です」と説明してくださった(もっとも、ツェー・モールはCマイナーとわかったが、エス・ドゥアーがわからず、うちに帰ってE♭メジャーだと確認した)。
 受講生の伴奏では包みこむような演奏を聞かせた鈴木理恵さんが、この曲ではクァルテットとの「音の絡み合い」を楽しんでいるように感じられた。このクァルテットはチェロとヴィオラが強力なので、富沢さんも自由に伸び伸びと演奏できたのではないだろうか。
 モーツァルト生誕250年、シューマン没後150年に合わせた選曲で、それぞれハイドン、メンデルスゾーンと当時の音楽家たちの交流も教えてもらった。林さんの演奏会はお話も楽しい。

 林さんが郷里でもない岩手で、なぜこんなに盛んな音楽活動をなさるのか。
 林さんは岩手大学管弦楽団の弦楽トレーナーだったので、もともと岩手と縁があった。そして、ウィーンに留学した折り、盛岡出身でウィーン在住の鈴木理恵さんと知り合ったことがきっかけで、ララ・ガーデンでのコンサートが実現した(縁は異なものです)。
 林さんは岩手山を望む「極楽のような」素晴らしい景観のララ・ガーデンがすっかり気にいってしまい、以後、常連の出演者になられた。そればかりか、昨年からは「しずくいし夏の音楽祭」の企画運営に携わっている。ただでさえ忙しいだろうに、好きなクラシックを広めたい一心での行ないだ。頭が下がる。
 なお、出演者のプロフィールはこちら

 アンコールにはモーツァルト晩年のモテット「アヴェ・ヴェルム・コルプス」を、ララ・ガーデンで毎年「メサイア」を演奏している合唱グループと一緒に演奏した。夏の終わりに開かれた音楽祭の最後を飾るのに相応しい、崇高な曲と演奏だった。

◆このごろの斎藤純

〇今月から野村胡堂・あらえびす記念館(紫波町)で、文章講座がはじまる。その講師をつとめることになった。定期的(1カ月に1回で全6回)な講座の講師は初めてだ。
〇実は文章講座は「教えながら、教わる」ものだと思っている。「野村胡堂」を顕彰する施設での文章講座は他と違って緊張するが、新たに学ぶチャンスが巡ってきたことを喜びたい。

メンデルスゾーン:交響曲「宗教改革」を聴きながら