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◆第142回 津軽の響きを聴く(5.february.2007)

和の響きIV 『津軽三味線の魅力』
2007年1月20日 盛岡市民文化ホール〈小ホール〉

佐藤通弘(津軽三味線)
佐藤通芳(津軽三味線)
田辺頌山(尺八)
木津茂里(太鼓・唄)

 どうしようもなく血が騒ぐ(津軽弁では「じゃわめく」というのだろうか)音楽がある。フラメンコ、アルゼンチン・タンゴ、そして津軽三味線がそうだ。
 この日は存分に血のめぐりをよくしてもらった。津軽三味線奏者佐藤通弘さんの盛岡での初めての演奏会である。

演奏曲目は以下の通り(*印はオリジナル曲)。

〈第1部〉
1.津軽よされ節
2.津軽音頭
3.津軽三下り
4.おとなひ*
5.津軽三味線曲合わせ(編曲:山田千里)
6.夏、宵祭り*

〈第2部〉
7.津軽じょんから節
8.十三の砂山
9.ドダレバチ*
10.弘前城桜吹雪*
11.むかし、むかし*
12.秋田甚句
13.じょんから新旧節
14.ジョンから元気*

 佐藤通弘さんは巨匠山田千里のお弟子さんだ。山田千里はエルヴィン・ジョーンズとも共演したことがある。こういうところが津軽三味線の面白いところだ。本家本元のお家元からして、軽々と越境して新しい音楽の世界を切り開いてきた。

 佐藤通弘さんも海外での公演経験が多い。それどころか、留学経験もある。
 というと、今流行りの津軽三味線風ロックを連想されるかもしれないが、全然そうではない。ぼくが最近聴いたなかでは、最も土臭い(もっというと、泥臭い)津軽三味線だった。

 それは伝統的な曲ばかりでなく、オリジナル曲の場合でも感じることができた。佐藤通弘さんには(東京生まれであるにもかかわらず)津軽の血が流れている。
 このごろの津軽三味線はスマートすぎるのではないか。そんなことを佐藤通弘さんの演奏を聴いて感じた。

 土臭いとか、スマートといった言葉では抽象的でわかりにくいかもしれない。「タメ」の問題のような気もしている。
 「タメ」というのは、オンタイムよりちょっと出遅れた感じで音が出る。
が、そうすると、どんどん遅れてしまうことになりかねない。どんなに「タメ」を効かせても、演奏がずれたり、テンポが遅くなることはない。不思議といえば不思議だが、津軽三味線ばかりでなく、ジャズにもクラシックにも「タメ」はある。
 エルヴィン・ジョーンズのドラムからも「タメ」は感じることができたものだし、ウィーン・フィルが演奏するウィンナ・ワルツにも「タメ」が確かにある。

 佐藤通弘さんのオリジナル曲もたくさん聴けてよかった。それは伝統にのっとっていて、しかも新鮮な音楽だった。現代に通じる津軽三味線を実現するのに、エレクトリック楽器や西洋音階を使う必要がないことをこの日の演奏は教えてくれた。

 共演した佐藤通芳さんは通弘さんのご子息だ。面白いことに、親子であるにもかかわらず、その音楽はやはり異なっている。
 そういえば、五木寛之さんがこんなことを話してくださったことがある。
 「長部日出雄さんに誘われて、100人による津軽三味線の演奏会を聴いたことがあります。師匠と同じように弾けと習っているはずなのに、100人が100人、それぞれ違う。また、違うことが津軽三味線の魅力なわけですが」

 日本民謡をベースにさまざまなジャンルで活躍中の木津茂里さんの唄と太鼓、人間国宝山本邦山門下の田辺頌山さんの尺八も聴き応えがあった。

 盛岡市文化振興事業団はたまにこういう「めっけもの」的なコンサートを主催する(第93回のアイルランド古楽などもその一例)。感度のいいアンテナの持ち主がいるのだろう。

◆このごろの斎藤純

○何だか毎日、眠くて、ダルくてしようがない。どうやら、こういう症状は冬によくみられるらしい。暖冬で、冬らしい冬ではないのだが。

ライヴ/マーヴィン・ゲイを聴きながら