今どき、パリを「芸術の都」というのは何か恥ずかしいような感じがするけれど、この展覧会を見れば「芸術の都」だった時期が確かにあったんだ、と実感できる。
パリが芸術の都と呼ばれるのは、フランス人画家が華々しく活躍したことはもちろんだが、世界中から美術家が集まったからでもある。
彼らはフランスの古典美術から多くを吸収して学びとったばかりでなく、当時、最先端の美術ムーヴメントに加わっていった。
さまざまな国の美術家たちが、パリで活躍したその流れを本展覧会で見ることができる。
藤田嗣治、モジリアーニ、ドラン、シャガールなど、いわゆるエコール・ド・パリの作家群が中心のとても見応えのある展覧会だ。
ぼくが初めてポンピドーセンターに行ったのは、14、5年前のことだ。だから、もうあらかた忘れ去ってしまっている。新鮮な気持ちで観ることができた一方、ニコラ・ド・スタールをここで観たときの感激を思いだして懐かしくもあった。
懐かしいといえば、ぼくはキュビスムの作品になぜか郷愁に似たものを覚える。子供のころ、親によくつれられていった喫茶店にキュビスムの模造品がかかっていたような記憶があるから、そのせいかもしれない。
他にポンピドー・センターの所蔵作品から、現役で活動している中国や南米、アフリカ出身の現代芸術家たちの作品、約200点も紹介されている。
図録も充実ぶりも特筆しておきたい。
ところで、本展覧会は六本木に誕生した国立新美術館で開催されている。
巨大なガラス張りの建物の設計者は、都知事選で話題の黒川紀章氏だ。もともとこの敷地には旧陸軍の施設があった(後に東大が活用した)。貴重な近代化遺産の保存を求める運動があったと聞く。残念ながら運動は実らなかったが、「建物の一部を保存した」と黒川氏は自慢げに紹介している。
確かに「一部」が別館の壁として残されているが、情けないような残し方だ。
パリのオルセー美術館は、昔の駅を美術館に改装した建物だ。パリの人々の「古いものを残す」意志の強さと、そのセンスにはただただ脱帽するばかりだが、国立新美術館もオルセー美術館に倣って、古い建物を再活用するという方法がなかったものだろうか。今さら言っても詮ないことだが。 |