行く前からさんざん「長蛇の列だよ」とか「混んでいて、ゆっくり観られなかった」と聞かされていた。ところが、意外にも並ばずに入場できたし、比較的ゆっくりと観ることもできた(もちろん、他の展覧会とは比較にならないほどの人出でしたが)。
ぼくがこれまで一番熱心に観てきたのは、やはり印象派の絵画だと言っていい。日本にもいいコレクションがあるし、展覧会の数も多いおかげだ。
印象派を観るためにパリ、ロンドン、ニューヨーク、フィラデルフィア、ワシントンの美術館も訪れている。ニューヨークはおそらくパリに次いでコレクションが充実している。本国フランスで認められるより先に、ニューヨークは当時の前衛である印象派を好意的に受け入れたからだ。
とはいえ、印象派といえば当然ながらオルセー美術館なのだ。ここは印象派の殿堂、聖地である。オルセー美術館に行けば、印象派とは何なのかが、そのスタートから目にすることができる。
そのオルセー美術館から140点もの作品(写真、彫刻などを含む)が、日本にやってきて公開されている。興奮しないわけにはいかない。
会場に入ってすぐにジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラーの〈灰色と黒のアレンジメント第1番、画家の母の肖像〉がある。
もうこれだけで感激のあまり目眩を覚える。ホイッスラーとジョン・ラスキンのあいだの裁判沙汰、ポール・セザンヌとエミール・ゾラの決別など印象派に関わるエピソードを思いだしながら、観てまわった。
改めて言うまでもなく、名品揃いだ。黒い色使いが印象的なマネ、移ろいゆく光の一瞬をとらえようとしたモネ、セザンヌの〈サント=ヴィクトワール山〉、エドゥアール・マネの〈すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ〉など一々作品名を挙げるとキリがない。ゴーギャン、日本人の好きなゴッホ、ルノワールの前はやはり凄い人だかりだ。
一通り観終えて、もう一度頭から観なおした。それでも、立ち去りがたかった。時間がゆるすかぎり、ずっとそのままとどまっていたかった。
パリを訪れたときのことが脳裏によみがえってきた。オルセー美術館で、丸一日過ごし、何度も何度も同じ絵を観た。それでも、美術館を出るときに後ろ髪を引かれる思いがした。
最後にオルセー美術館に行ってから、もう十年も経っている。パリは東京と違い、まちが大きく変わることはないけれど、最近のようすを無性に知りたくなった。
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