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◆第148回 モネの二面性(30.april.2007)

国立新美術館開館記念「大回顧展モネ 印象派の巨匠、その遺産」
国立新美術館(六本木)
2007年4月7日(土)〜7月2日(月)

 東京は美術展バブルで、見逃せない展覧会が目白押しだ。前々回のオルセー美術館展は印象派の全貌を見渡せる展覧会だった。今回紹介するのは、印象派の代名詞となっている巨匠モネの大回顧展だ。
 「大回顧展」と銘打っているだけのことはあって、国内外から選りすぐった97点もの作品と対面できる。
 「その遺産」というのもミソだ。モネの影響を受けた20世紀以降の作品も26点展示されている。

 モネが生きた時代は、文明が激しく変化(あえて、進歩とは書かない)した。電気が普及し、蒸気機関車が都市間を走り、市中では馬車に代わって自動車が騒音と排ガスをまくようになっていく。

 移り変わる光をキャンバスに定着させることに生涯をかけたモネは、新しい文明にも目を向けていた。蒸気機関車や蒸気機関車が出入りする駅を好んで描いたのだ。
 文明を肯定しているモネをそこに見ることができる。
 スモッグ(煤煙)に煙るロンドンの風景を愛したのも、スモッグによる光の変化を好んだことに加えて、その効果を生む文明へのシンパシーがあったことがうかがえる。

 最終的にモネはジヴェルニーの邸宅に日本風庭園をつくり、隠遁的芸術生活を送る。それでも、自動車を持っていたというから、それは決して文明へ背を向けた姿勢でなかったと思う。

 モネは自然を愛したが、自然だけが第一という画家ではなかった。本展覧会でモネのそんな二面性を知ったような気がする。

 「その遺産」のコーナーでは、エルズワース・ケリーの〈緑のタブロー〉がよかった。ちょっと見たところ、キャンバスを緑一色で塗り潰しただけのような絵だが、実は階調が微妙に異なる緑をたくさん塗り重ねている。この作品について画家本人が「モネからの影響」と語っている。
 10年ばかり前にグッゲンハイム美術館(ニューヨーク)を訪ねたとき、たまたまケリーの展覧会がひらかれていた。
 それがケリーとの初めての出会いだった。ほかの場所でケリーと出会っていたら、まったく印象に残らなかったに違いない。斬新ならせん状の展示室を持つグッゲンハイム美術館にはぴったりフィットしていて、以来、好きな画家のひとりになった。

 ただ、「その遺産」コーナーには唐突な印象を受けたり、ちょっとこじつけっぽいなあ、と思われる作品もあった。
モネを必ずしも抽象絵画の先駆けと位置づけているわけではないが、モネが後世の画家に自由な描き方を示唆したことは確かだろう。

 「モネをジヴェルニーに訪ねた日本人」という資料展示コーナーでは、人づきあいを断っていたモネが日本人とだけは喜んで会っていたことが紹介されていた。
 ゴッホが日本に憧れていたことや(それは我々日本人から見ると、誤解をもとにした憧れだったわけだが)、印象派の画家に浮世絵が好まれたこともよく知られている。モネも大変な日本びいきだった。
 印象派が日本人にことのほか好まれるのは、「魂の結びつき」のようなものが底にあるのかもしれない。

◆このごろの斎藤純

○ゴールデン・ウィークですね。ぼくは例によって、みなさんが遊んでいるときは(そのときくらいは)仕事をしています。ゴールデン・ウィークが終わったら、休暇をとる予定です。

ニャタリ作品集を聴きながら