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◆第160回 姫神コンサート(15.october.2007)

姫神コンサート 2007年10月13日 午後6時30分開演
岩手県民会館大ホール(15.october.2007)

 新生姫神(もう新生と断る必要もないですね)2年ぶりの盛岡公演を聴いた。
 いいコンサートだった。来年2月に発売されるニューアルバム『天∴日高見乃國』からの新曲をメインにした構成もよかったし、何よりも一人のアーティストの大きな成長ぶりを目の当たりにできたことが、ぼくにとって意義深かった。

 2年前、ぼくは同じ県民会館大ホールで新生姫神を聴いた。星吉昭さんが前年に急逝され、まさに「新生」だった。そのコンサートをぼくはあまり楽しめなかった。
 こちらの姿勢にも問題がなかったわけではない。一種のカリスマ的な魅力のあった星吉昭さんの姿が、こちらにはまだ生々しく残っていた。「姫神」と名乗るからには、どうしても比べてしまう。ステージが進むにつれ、亡くなられた星吉昭さんの凄さをひしひしと痛感させられるばかりで、正直、つらかった。

 ところが、今回、ぼくは星吉紀さんの音楽を存分に味わい、楽しむことができた。吉紀さんに吉昭さんの姿を重ねて、比べもしなかった。それは、吉紀さんがご自分の音楽を自信を持って披瀝されたからにほかならない。

 もちろん、それは吉昭さんを否定することにはならない。吉昭さんを乗り越えた、というのとも違う。真の意味での新しい姫神がぼくの前にあらわれたのだ。
 サポートメンバー(というよりも、姫神一家というほうがふさわしい)も、それぞれ存在感のある演奏で、吉紀さんが目指す音楽を一緒につくっていた。羨ましいほど、いい仲間に恵まれている。

 吉紀さんの音楽は、とても繊細だ。洗練されてもいる。ただし、吉昭さんの姫神サウンドにあった明快な骨太さに欠けているような気がしないでもない。もちろん、同じである必要はないのだから、それでいいのだ。
 姫神の大きな財産である吉昭さんの作品をどのように演奏していくか。それが今後の課題だろう。

 高橋克彦氏が近著『楽園にようこそ』(NHK出版)で星吉昭さんについて〈美しい、とか、心を癒やす音楽はほかにもあるだろう。けれど星さんのように東北人である誇りを感じさせてくれるものはない〉と書いていらっしゃる。
 いずれ、星吉紀さんも同様の評価を得る存在となるに違いない。そんなことを予感させるコンサートだった。

シンセサイザー:星吉紀
ヴァイオリン:山本友重(東京都交響楽団コンサートマスター)
津軽三味線:黒澤博幸
太鼓:佐々木達哉(山口太鼓)
姫神ヴォイス

◆このごろの斎藤純

○すっかり秋めいてきた。オートバイや自転車で出かけるのに最もいい時期なのだが、事情があってどこにも出かけらず、うちで鬱々としている。
○今週末、毎年の楽しみにしている弦楽合奏団バディヌリの定期公演が県民会館大ホールでひらかれる(午後7時開演。一般1000円、中高生500円、小学生以下無料)。この機会に弦楽合奏の深く透明な響きを味わっていただきたい。

キネマ楽園/鈴木大介を聴きながら