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◆第168回 体も心も揺さぶるフラメンコ(11.february.2008)

ゆきあかりコンサート スパニッシュ・コネクションLIVE in 盛岡
2月2日(土) 18:00開場 18:30開演 プラザおでってホール(盛岡市中の橋通)


出演:伊藤芳輝 フラメンコギター
   平松加奈 ヴァイオリン
   吉見征樹 タブラ
   大渕博光 カホン、カンテ(歌)
   伊藤寛康 ベース
賛助出演:山岡晶子(踊り)エルヒラソル・イ・ラスヒタナス主宰

 伊藤さんは何度か盛岡にいらしていて、ぼくも二度、ソロのライヴを聴いている。フラメンコをもとに独自のオリジナリティ溢れる音楽世界をつくっているミュージシャンであり、超絶技巧のギタリストである。
 今回は伊藤さん率いるスパニッシュ・コネクションにゲストを迎え、盛岡では初めてのホールコンサートだ。満員の客席には市外、県外からの方も多かった。

 ソロ・ライヴのときと同じようにオリジナル、フラメンコのスタンダード、フラメンコ以外の曲をアレンジしたものなどのプログラムだ。ま、しかし、どんな曲であってもそれは伊藤さんの音楽以外のなにものでもない。

 ヴァイオリンが加わったフラメンコを聴くのは初めてだ。これがとてもよく合う。
 フラメンコはジプシー(ロマ)の音楽だ。ジプシーはインドから東西に散っていった流浪の民で、その先々で独特の文化をつくっている。たとえば、ぼくたちがブラームスやリストの作品を通してハンガリー民謡として接しているものは、実はジプシーの音楽だ(ラカトシュという超絶技巧ヴァイオリニストが活躍していますね)。
 今回はそのハンガリーのジプシー音楽も聴けたし、アラブの旋律も聴くことができたし(映画『ぼくのスウィング』を思いだした)、ジャンゴ・ラインハルトで知られるジプシースウィングの響きも耳にすることができた。
 多様な音楽を扱いながら、それがばらばらにならず、一本筋が通っている。スパニッシュ・コネクションの音楽性のあらわれと言っていいだろう。

 ソロ・ライヴの場合でも聴いているうちに体が自然に動きだすのだが、パーカッションが加わったことで、よりリズムが鮮明になり、できれば踊りたいような気分になった。
 特筆したいのはタブラである。
 タブラをこのように聴いたのは初めてだった。音楽に奥行きを与えていた。これは音程を持つ打楽器で、デリケート(つまり、チューリングが狂いやすい)な楽器らしく、チューニングに気を配っていた。

 カンテ(歌)も素晴らしかった。本場ではフラメンコというと、カンテが第一なのだそうだ。日本ではフラメンコというとまず踊りが第一に挙げられ、次にギター、最後に歌となる(フラメンコに歌があることを知らない人も少なくない)。そのため、なかなかカンテを聴く機会がない。いいものを聴かせていただいた。

 体を座席の上で揺らしつつ聴いているうちに、何か「ありがたい」という気持ちに包まれていた。
 伊藤さんたちの音楽への感謝も、もちろんある。それとは別に、音楽そのものへの感謝もあるし、音楽を生んだ風土や人間への感謝や、それを享受できることへの感謝も含んでいる。
 このごろ、音楽の現場でそんなふうに心が揺さぶられる。

◆このごろの斎藤純

〇このコンサートの前日、同じ場所で盛岡市ブランドフォーラムが行なわれ、ぼくもパネラーとして出席した。とても充実した内容だった。基調講演で赤坂憲雄氏が「盛岡、仙台、山形に現役作家が30名はいる。東北がますますおもしろい」というようなお話をされた。そのなかのひとりとして、気が引き締まる思いがした。

ミリ・ファミリア/チャボロ・シュミットを聴きながら