一見、危ないヤ〇ザ風のルックスの男たちがステージに登場する。街で会ったら、絶対に目を合わせないように気をつけたいタイプの連中だ。
そんな彼らが童謡・唱歌を歌う。崩れたルックスと違い(いや、失礼)崩したルックスと違い、その歌声は優しく、心の奥底に響く。これが男声合唱連合「極」のコンサートだ。
「極」と書いて、キワミと読む。決して極道のゴクではない(ごめんなさい、ずっとゴクだとばかり思ってました)。男声合唱による童謡・唱歌、そしてポップスなどの演奏を「極めよう」という強い思いがこの名前には込められているような気がする。
実際、彼らが衣装をはじめ、トークなどにも気を配っているのは、代表で常任指揮者の太田代将孝さん曰く「このジャンルは集客が難しい」からだ。単なるおふざけではなく、お客さんに楽しんでいただくための計算された演出なのである。
トークで大いに笑わせたかと思うと、歌でちゃんと泣かせる。会場をひとつにまとめる手際が実にみごとだ。極上のエンターテインメントと言っていい。
一例として、田中ナナ作詩・中田喜直作曲の『おかあさん』の演奏シーンを挙げたい。
おかあさん
なあに
おかあさんて いいにおい
せんたくしていた においでしょ
しゃぼんのあわの においでしょ
おかあさん
なあに
おかあさんて いいにおい
おりょうりしていた においでしょ
たまごやきの においでしょ
事前に練習もなく、「おかあさん」という呼びかけに対して、会場から「なあに」とおかあさんたちが応じる。同様に「おかあさんて いいにおい」に対して「せんたくしていた
においでしょ しゃぼんのあわの においでしょ」とおかあさんたちが応じて二番まで歌う。さらに「おかあさん」と呼びかけるのだが、会場のおかあさんたちに戸惑いがひろがる。それもそのはず、この曲は三番がないのだ。ジョークだとわかり、爆笑が起こる。
このことからもおわかりのように、客席のレベルもかなり高いと思った。これはあらゆるジャンルの音楽で言えるのだが、優れた演奏家は優れた聴衆を集めるものだ。
合唱がはじまってすぐに「低音が強いな」と感じたが、これにはちゃんと理由があった。この日、強風のため新幹線のダイヤが大幅に狂った。その影響で「極」のメンバー二人の到着が遅れ、後半から参加する形になった。高音部の二人だった。この二人が加わってからは、バランスがよくなった。
岩手を中心に引く手あまたの音楽活動をしている北田了一さん率いるトリオとの共演も息が合っていて楽しめた。
実のところ、ぼくは今まで合唱を自ら進んで聴くことはなかったが、蒙を啓かれたような思いがした。
巨匠が奏でる音楽に身も心もゆだねるコンサートも素晴らしいが、このコンサートのように新しい何かが今まさに生まれつつある現場に立ち会うという喜びに勝るものはない。「極」は現在進行形の試みであり、これからさらに進化していくだろう。大いに期待したい。 |