トップ > 目と耳のライディング > バックナンバーインデックス > 2008 > 第171回


◆第171回 アンカー展(24.march.2008)

『アンカー展』 郡山市立美術館 2008年2月2日-3月23日

 アンカーという名前と作品の写真だけから、女性の画家と思いこんでいた。もうひとつ、これは女性と子供(年齢だけを意味するのではない)向けの絵だと思いこんでもいた。そういう先入観を持った僕自身が「子供」だったことを展覧会に行って思い知らされ、反省している。

 アルベルト・アンカー(1831-1910)はドガやセザンヌとほぼ同時代の画家で、スイス本国では国民的画家として親しまれているという。
 写実による端正な肖像画と風俗画(生活の一場面などを描いた絵)は、日本人受けしそうなのに、不思議なことにこれまで日本ではちゃんと紹介されたことがなかった。

 室内を描いた作品の前でフェルメールを連想したら、別の絵の解説でフェルメールの影響が言及されていた。写真で見て興味を持っていた水彩風景画は、なんとハガキほどのサイズなので驚いた。縦30センチくらいの絵を想像していたのだ。
 水彩による人物画は人気を博してアンカーの生計を支えると共に、その名を不同のものにした。岩手在住の人気画家藤井勉氏の作品にアンカーの研究があとが見られると思うが、これは専門家の意見をうかがいたい。

 アンカーはありふれた日常の光景を描いたのだと思うが、今となっては「失われた平凡さ」(もっというなら、「平凡さゆえの平和な光景」)であり、それが我々の心に滲みる。
 また、幼くして亡くした二人の子を描いた作品の前では涙を禁じ得なかった。

 郡山市立美術館は明治美術の充実したコレクションも持っていて、これまでに3度ばかりお邪魔している。
明治美術というのは、日本に油絵の画法が本格的に入ってきた時期に描かれた洋画の作品群だ。それに、洋画の影響を受けつつ伝統からの脱皮を図った日本画も加わる。明治期には洋画と日本画のせめぎ合いがあり、融合があった。いずれにしても、何か鬼気せまるような異様な力に満ちているのが明治美術の特徴だ。
 この常設展示だけでもかなり見応えがあるのでぜひ足を運んでいただきたい。

◆このごろの斎藤純

〇40年の歴史を持つ文芸タウン誌『街もりおか』の編集長を引き継ぐことになった。「二足のわらじをはくことになった」と挨拶をしたら、「二足どころじゃないだろう」と返された。まったくそのとおりでますます身動きがとれなくなってしまった。

『父と子のジプシージャズ』ロマーヌ&リシャル・マネッティを聴きながら