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◆第173回 音楽映画を観る(21.April.2008)

 昨年から今年にかけて、おもしろい音楽映画の公開がつづいた。
 劇場で観た映画を順にざっと挙げていく。ジェニファー・ハドソンがアカデミー賞助演女優賞に輝いた(主役のビヨンセもよかったし、音楽も素晴らしかったのになぜかアカデミー賞を逃した)『ドリームガールズ』(07年2月公開)、意外に掘り出し物だった『ラブソングができるまで』(07年4月公開)、ロバート・アルトマン監督の最後の作品『今宵、フィッツジェラルド劇場で』(07年3月公開)、異色のミュージカル映画『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(08年2月公開)、近年観た音楽映画のなかでは最も好きな『ONCE ダブリンの街角で』(07年11月公開)、フラメンコなどのジプシー音楽のルーツを探るドキュメンタリー映画『ジプシー・キャラバン』(08年1月公開)、かつてこれほど暴力的な芸術映画はなかっただろう『四分間のピアニスト』(07年11月公開)、ひじょうに爽やかな気持ちで劇場を後にすることができた『僕のピアノコンチェルト』(07年11月公開)、マリア・カラスとギリシヤの海運王オナシスの愛憎劇を描い『マリア・カラス 最後の恋』(08年1月公開)、音楽映画とは言えないかもしれないが、『善き人のためのソナタ』(07年2月)も入れておこう。

 『ジプシー・キャラバン』は残念ながら盛岡では未上映。ボサノヴァ誕生のエピソードを追ったドキュメンタリー『ディス・イズ・ボサノヴァ』(07年9月)も盛岡では上映されなかった。上京したときも時間がとれなくて見逃していたのだが、このたびDVDで発売された。これはボサノヴァ好きにとっては宝物のような映画だ。

 エンターテインメント性が最も高いのはやはり『ドリームガールズ』だろう。モータウン・レコードの歩みをもとにしたストーリーと楽曲が秀逸だった。以前ほどの勢いのないエディ・マーフィーが落ち目の歌手の役だったのも印象的だ。
 独特な(というか不思議な)雰囲気の『今宵、フィッツジェラルド劇場で』も忘れがたい。カントリー&ウェスタンのラジオ番組 という我々日本人には最も馴染みのない世界だけに好き嫌いがわかれたようだが、音楽の質が高かったし、ファンタジーとしてもよくできていた。

 上記の対極に位置するのが、『四分間のピアニスト』と『善き人のためのソナタ』だろう。重い映画だ。どっちドイツ映画なのだが、ハリウッドなら同じテーマでも、もう少し救いのある描き方をするに違いない。もしかすると、この手の映画に拒否反応を示すのはハリウッドの悪影響なのかもしれない。
 そのハリウッドからの『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』はまったくいただけなかった。ジョニー・デップじゃなければ、ぼくは途中で劇場を出ていたと思う。

 『ONCE ダブリンの街角で』はどこかアマチュアっぽいつくりだが、もし機会があったらご覧いただきたい。心の闇を描くことも大切だが、こんなふうに人の心を暖かくする映画がもっとあっていい。『ラブソングができるまで』と見比べてみるのもおもしろいだろう。

 ちょっと寂しいことがある。かつては音楽映画からはヒット曲が誕生し、それがスタンダードになっていったものだ。総合芸術である映画の力がなくなったきたということなのだろうか。

◆このごろの斎藤純

○半年ぶりに長距離ツーリングに出る予定だ。山形から新潟を経て、金沢までのルートを考えている。天気がよければいいのだが(何度も書いてますが、ぼくは雨男なんです)。

ディス・イズ・ボサノヴァ・コンピュレーションアルバムを聴きながら