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◆第182回 モディリアーニの源泉を探る(2.September.2008)

アメデオ・モディリアーニ展
岩手県立美術館
2008年8月12日-10月5日

 首の長い女性の肖像画で知られるモディリアーニは、日本での人気が高い。ここ数年間に立てつづけに大きな展覧会があったし、今年も本展覧会とは別に国立新美術館などで大規模な展覧が開催されている。
 神戸大学大学院人文学研究科の宮下規久朗准教授は、8月31日にひらかれた岩手県立美術館(以下、県美)での講演で「日本人は夭逝した芸術家を愛するから」と分析してみせた。そのうえで「岩手が生んだ芸術家……萬鉄五郎、松本竣介、宮沢賢治、石川啄木はみんな夭逝している。そういう土地でモディリアーニ展が開かれているのも何かの縁だろう」と冗談混じりにおっしゃっていた。

 ぼくが思うに、日本人は様式美を受け入れ、それを愛する傾向が強い。もともと狩野派などの日本美術は様式美の継承で成立してきた。浮世絵も様式美の典型といっていい。モディリアーニ同様、ビュフェが本国フランスよりも日本で大切にされているのも同じ理由からだと思う。ことに浮世絵については、モディリアーニが影響を受けているという指摘もある。

 もうひとつ、これは宮下氏も指摘していたが、モディリアーニを主人公にしたフランス映画『モンパルナスの灯』がヒットしたことも大きい。この映画でモディリアーニ役を演じたジェラール・フィリップという二枚目俳優の人気も日本で高かったので、相乗効果を生んだ。ちなみに、ジェラール・フィリップはこの映画に出た翌年にモディリアーニと同じ36歳で亡くなっている。

 『モンパルナスの灯』は日本でのモディリアーニ人気を決定づけたばかりでなく、誤ったモディリアーニ像を世界中に流布することになってしまった。つまり、貧乏で、飲んだくれていて、生前はまったく評価されなかったが、死後に世界的な評価を得た不遇の芸術家という、ある種、ステレオタイプのモディリアーニ像である。
 さらに、史実を付け加えると、モディリアーニの作品のモデルを多くつとめ、当時モディリアーニの二人目の子を宿していたジャンヌ・エビュテルヌが、モディリアーニの死後二日後に自宅アパートの窓から投身自殺を遂げている。この悲劇もモディリアーニ伝説を強化することになった。

 近年、そのようなモディリアーニ伝説を見直す動きが活発になってきた。モディリアーニ展が連続して開催されるのもその影響だという。
 宮下氏の講演ではモディリアーニがイタリア美術から受けた影響が明らかにされた。これは刺激的で、おもしろかった。
 また、モディリアーニがアフリカやアジアの古代彫刻やプリミティヴアートから影響を受けて制作した彫刻について宮下氏は「絵画では美術史に残るような新しいものを残せたわけではないが、彫刻は前衛的であり、あのまま制作をつづけていれば、彫刻家の巨匠として名を残すことになっただろう」と話された。
 モディリアーニが彫刻を制作した期間は3年ほどと短く、作品数も少ない。その理由として「彫刻は体力が勝負。モディリアーニにはその体力がなかったし、もともと悪かった肺に、石の粉塵が悪影響を与えたに違いない」と宮下氏はいう。
 その彫刻が一点も出ていないのは残念だが、本展覧会は同時期に大阪の国立国際美術館で開催されている『モディリアーニ展』よりも「質の点で勝っている」(宮下氏)といわれているから、見逃してはなるまい。

 モディリアーニがモデルとした人物や影響を受けたものをパネルで展示してあり、モディリアーニ入門にも最適な展覧会といえるだろう。

◆このごろの斎藤純

『街もりおか』の編集長に就任して半年が過ぎました。ますます内容充実の『街もりおか』をぜひお手にとってご覧ください。
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