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◆第183回 本邦初の自転車ロードレース映画(15.September.2008)

 『シャカリキ』を観た。
 曽田正人原作の同名コミックの映画化で、実写のロードレース映画としては日本初とのこと。アニメでは『茄子アンダルシアの夏』という短編の名作がある。

 ストーリーはいたってシンプルだ。坂道になると異常に速さを発揮(ただし、ロードレースに関しては素人)する主人公の野々村輝と、輝が入部した自転車部のエース嶋村大介、そしてそのライバル由多比呂彦の3人を中心に物語は展開する。
 ロードレースの知識があれば先が読めるし、随所に劇画的表現があって(原作がそうなのだから、当然だが)、全体的に軽い。まあ、あまり難しく考えないで楽しんでくれ、という映画だ。
 が、昨今、こういうストレートな熱血スポーツ根性ものって、少ないのではないだろうか。
 ロードレースの知識がなくても理解できるように工夫されているのが嬉しい。レースシーンも迫力がある。変にぐちゃぐちゃとした人間ドラマを盛り込まず、シンプルな物語に徹したことが功を奏している。

 ひいき目と指摘されるのを承知のうえで書いておくが、中心人物3人のうち、由多比呂彦役の鈴木裕樹(岩手県北上市出身)が最もいい演技をしていた(役柄も得な役だった)。
 逆に(この作品の意図なのだろうけれど)主人公の野々村輝が狂言回しにされてしまっていて、ちょっとかわいそうだな、という気もした。

ところでロードレース自体、日本ではマイナーなスポーツであるため、世界最高峰のツール・ド・フランスでさえ、ちゃんと報道されない。こういう状況は日本の文化鎖国・文化音痴の最たるもののひとつだと言っていい。
 しかし、劇画はけっこう読まれているようだし、こういう映画がヒットすることによって、理解がひろまっていくに違いない(と、期待している)。

ちなみに、ぼくの『銀輪の覇者』は戦前の日本で盛んだったロードレースを描いた冒険小説で、刊行当時、日本初の自転車競技小説といわれた。
 その後、近藤史恵さんの『サクリファイス』がベストセラーになり、川西蘭さんの『セカンドウィンド』も評判になった。
『シャカリキ』は『セカンド・ウィンド』の世界に近いが、『サクリファイス』の根幹をなすチームプレイの要素も盛り込まれている。というより、ロードレースそのものを描くと、どうしても似たものになってしまうのかもしれない。
 本邦初のロードレース映画と紹介したが、欧米でもロードレースの映画は意外に少ない。ケヴィン・コスナー主演、ジョン・バダム監督の『アメリカン・フライヤーズ』という佳品くらいしか思い浮かばない。
 ついでながら、ぼくの『銀輪の覇者』もテレビドラマ化、映画化の話はあったが、残念なことに企画段階でポシャっている。

◆このごろの斎藤純

○湿気がなくなり、サイクリング日和に恵まれている。『シャカリキ』の主人公らと違い、ぼくはロードレーサー(軽量の競技用自転車)をのんびり走らせている。坂道は苦しいけれど、自分の力だけで遠くへ行くことがこんなに楽しいとは!

モーツァルト:大ミサ曲ハ短調を聴きながら