岩手県では、県立美術品ができる前から県立の施設(県民会館など)が美術品を買い上げてきた。その一部は県立美術館のコレクションとなって展示されているが、そうでないものも数多い。
たとえば、県議会が所蔵する美術品などを我々は観ることができない。また、公共の施設が所蔵する美術品のなかには、建物ができたときからそこにあるため、美術品として意識されることなく、見過ごされている場合もある。
県所蔵のそういう「隠れた美術品」を集めたユニークな本展は、改めてふたつのことを気づかせてくれる。
ひとつは県立美術館がつくられる豊かな土壌がずいぶん前から培われていたこと。もうひとつは、岩手は実にたくさんの優れた美術家を育ててきたということ。
さらにもうひとつ付け加えるなら、展覧会場をひとまわりすると、美術品を通して岩手の風土が体にしみていることに気がつく。 はっきり言って、地味な展覧会だ。けれども、滋味に溢れている(駄洒落ではなく!)。
ちなみに、アメリカ大統領はホワイトハウスにかける絵を、ワシントンのナショナルギャラリーから選択できるという特権を持っているそうだ。オバマ大統領はどんな絵を選ぶだろうか。
盛岡市では池田副市長が、盛岡市所蔵の美術品から澤田哲郎を選んで副市長室にかけていらっしゃる(池田副市長は岩手県立美術館設立の際の県の担当者で美術に造詣が深い)。
盛岡市は先の澤田哲郎「紙の仕事」展のように企画展を通して所蔵作品を公開しているが、我々の目に触れる機会が少ないのは否めない。財政難の折ではあるけれど、そろそろ市立美術館を開設しなければ、市民共有財産の持ち腐れということになってしまう。
ところで、今回、実は岩手県民オーケストラ第60回定期演奏会の感想を書く予定だったが、相当に辛口のコメントしか書けないコンサートだったのでやめることにした。
大急ぎでお断りしておくと、ゲストのピアニスト鈴木理恵さんは素晴らしかった。アンコールの拍手に応えて演奏したベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番『悲壮』の第2楽章の何と崇高だったことか。目頭が熱くなり、何か神の祝福を得たような気持ちで聴き終えた。
それだけに県民オーケストラの不調ぶりが痛かった。 |