展覧会のタイトルに、にやり、としてしまった。イギリス経験論を連想したのである。これは哲学用語で、デカルトらの大陸合理論と対比させる形で、ジョン・ロックらをイギリス経験論とくくった。
もっとも、これはあくまでも連想であって、本展とは関係がない。
世田谷美術館は所蔵作品を活用した、ユニークな展覧会を企画する。世田谷美術館の企画展に足を運ぶと、ひとつの作品が、異なるテーマによる切り口で、さまざまな印象を与えることを教えてくれる。
今回の切り口は「旅」だ。
イギリス人は旅好きだ。ウォーキングという旅のスタイルを生んだのもイギリス人で、国内にはフットパスというウォーキングルートが整備されている。これは「われわれイギリス国民にはイギリス国内を(たとえ私有地であろうと)歩く権利がある」という権利の主張からきている。
鉄道が発達すると、ヨーロッパ大陸への旅が一大ブームになったのも、旅好きなイギリスらしい現象だ。
19世紀以降の12人の作家による、旅から生まれた作品を本展は紹介している。出品作家は下記の通り。
J. M. W. ターナー(1775-1851)
ジョン・コンスタブル(1776-1873)
チャールズ・ワーグマン(1832-891)
バーナード・リーチ(1887-1979)
ヘンリー・ムーア(1898-1986)
ベン・ニコルソン(1894-1982)
デイヴィッド・ホックニー(1937-)
ボイル・ファミリー(マーク・ボイル 1934-2005、ジョーン・ボイル 1931−、セバスチャン・ボイル1962-、ジョージア・ボイル 1963-)
アンソニー・グリーン(1939- )
デイヴィッド・ナッシュ(1945- )
モナ・ハトゥム(1952- )
アンディ・ゴールズワージー(1956-)
ヘンリー・ムーアの彫刻が、ストーンヘンジの巨岩遺跡にルーツを持つことが残されたスケッチによってわかる。偶発的に選択された旅先の地表を実物大に再現するボイル・ファミリーの作品も見応えがあった。
地理的な旅ばかりではなく、時空をさかのぼる旅、記憶の旅なども含まれる。ここまで広げるとイギリス美術に限定する必然性が希薄になる。実際、アンソニー・グリーンなどはちょっと無理があるように感じたが 、ぼくはこの作家の作品が好きなので楽しんだ。
逆に日本からイギリスへ旅することによって生まれた作品の展示があってもいいように思った。たとえば、「霧の画家」としてロンドンで活躍した日本人画家に牧野義雄がいる。 |