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◆第199回 岩手が育んだ現代の美術(11.May.2009)

『印象・いわて』展
岩手町立石神の丘美術館 2009年4月25日〜7月5日

  〈このごろの斎藤純〉でもお知らせしたように、この4月から岩手町立石神の丘美術館の芸術監督をつとめることになった。その最初の仕事が、現在開催中の企画展だ。

コンセプトを立て、作家と作品を選出し、それを所蔵先(美術館や作家、コレクターなど)から借りる交渉をし、専門の業者の手を借りて搬入し、美術館に展示する……という作業を私は小説には何度か書いてきたが、初めて経験した。
少ない時間のなかでの準備だったから、開幕まで間に合うかどうかハラハラドキドキしどおしだったし、開幕前夜は興奮して眠れなかった。
しかし、楽しかった。大変だが、おもしろかった(ま、こういう性格だから、これまで何とかやってこられたのだろう)。

マスコミが取り上げてくれたおかげで、石神の丘美術館としては 順調な滑り出しである(もしかすると、入館者数の記録をつくるかもしれない)。
見応えがあったという声を聞いて、胸を撫で下ろしている。
横6メートルを超える畠山孝一さんの作品をはじめとして、本展覧会では大きな作品を集めた。それぞれの作家の絵の前で、それぞれの岩手の印象を受け取っていただければ嬉しい。
そして、そこに何か共通する「香り」のようなものを感じていただければ、この展覧会の意図が通じたことになる。

今回は〈斎藤純セレクション〉と謳っているので、作家ごとにコメントを付けた(通常の展覧会ではやらないことだが)。押しつけにならないように私の感じたことを短くまとめたつもりだ(下記、ご参照ください)。

重石晃子
《雪の東北》を初めて目にしたとき、未知の男性作家が描いたものと思った。作家名を知ったときの驚きと悦びに、今、再び浸っている。
一巡してこの絵の前に戻ってきたとき、最初の印象とは違った何かを感じさせてくれるだろう。
石井酉三
私は絵を観るときも音楽を聴くときも「北東北のモダニズム」というテーマを意識している。当館の芸術監督をつとめるようになって、これに「北緯40度」というテーマも加わった。
我田引水めくが、石川さんの作品はこの両方を具現化したものであり、教わること、考えさせられることが少なくない。
長谷川誠
岩手で暮らす私たちには見慣れた雪景色だ。一見、冷たい白一色の世界だが、ほのかな温もりが感じられる。雪の朝は寒さが少し和らぐことを私たち雪国の人間は知っている。
あるいは作者自身の人柄の反映といっていいのかもしれない。作品とはそういうものなのだろう。
畠山孝一
自然が持つ崇高な美に打たれたときと同じように、この絵の前で私は立ちすくんでいた。
三陸海岸にこのようなところは実際には存在しない。けれども、北山崎の断崖絶壁で感じた畏怖の念と同じものを、この作品からは受ける。
板垣崇志
私が岩手日報に『銀鱗の覇者』を連載したとき、板垣さんには挿画で支えていただいた。「ときに物語から離れて、自由なテーマで描いてみてもいいのでは」と提案すると、雲の鉛筆絵が添えられた。肝心の小説が負けてしまうような作品だった。
以後、私がさらに発奮したことはいうまでもない。
高橋和
「ああ、これは岩手の風景だ」と私は早合点してしまったけれど、実際は中南米の印象風景である。
後日、ご自身から「南米の印象を描いたものだが、自身の中では、南米と岩手に通じるところがあると考えている。そのことを理解いただけたようで、嬉しい」というコメントを頂戴した。
杉本みゆき
杉本さんの作品からは、いつも音楽が聴こえてくる。ファビオ・ビオンディのバロックヴァイオリンだったり、バーデン・パウエルのギターだったり……。それは、岩手を旅しているときに私が風のなかに聴く音楽とみごとに重なる。

 実はいろいろな事情があって、急遽、私のアイデアによる展覧会を開催することになったのだが、岩手県立美術館、萬鉄五郎記念美術館、盛岡市教育委員会の言葉に尽くせぬ協力によってどうにか実現することができた。いくら感謝しても感謝しきれない。
準備中、「これでいいだろうか」と絶えず不安を口にする私を「これはいい展覧会になる予感がします」と励ましつづけてくれた学芸員にも感謝したい。
それもこれも故六岡康光前芸術監督が残してくれた財産なのだと思う。ゼロからこの美術館を立ち上げた氏は大変な苦労をされたはずだ。そのおかげで、私は恵まれたスタートを切ることができた。

◆このごろの斎藤純

○6月7日、私が所属する田園フィルハーモニーオーケストラの第6会コンサートがあります。ぜひ足をお運びください。

6月7日(日)午後2時開演
田園ホール
一般800円(当日1000円)、中学生400円(当日600円)
【問】田園ホール 019-697-5585

ラフマニノフ:合唱交響曲「鐘」を聴きながら