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◆第202回 ラトゥール・カルテット誕生!(22.June.2009)

 第195回で紹介した弦楽四重奏団が、セカンド・ヴァイオリンに元東京フィルハーモニー交響楽団の馬場雅美さんを迎えて、正式に活動をはじめることになった(プロフィールは下に)。その記念すべき第1回コンサートを、私が芸術監督をつとめている岩手町立石神の丘美術館で開催させていただいた。

出演:ラトゥール・カルテット
とき:6月13日(土)午後5時開演
ところ:岩手町立石神の丘美術館ギャラリーホール

【プログラム】
1)A.ヴィヴァルディ作曲/FCM編曲:合奏協奏曲集「調和の霊感」Op.3 2つのヴァイオリンのための協奏曲第8番 イ短調より
 第1楽章アレグロ
2)F.J.ハイドン:弦楽四重奏曲第78番 変ロ長調 Op.76-4「日の出」より
 第1楽章:アレグロ・コン・スピーリト
 第3楽章:メヌエット/アレグロ=トリオ
 第4楽章:フィナーレ/アレグロ・マ・ノン・トロッポ
3)團 伊玖麿作曲/FCM編曲:花の街
4)長谷川 恭一:ラブ・レター
5)木村 弓作曲/長谷川 恭一編曲:いつも何度でも/「千と千尋の神隠し」より
6)宮澤 賢治作曲/長谷川 恭一編曲:星めぐりの歌(カノン)
7)W.A.モーツァルト/FCM編曲:トルコ行進曲
8)F.ショパン作曲/濱野 正編曲:ポロネーズ第3番 イ長調 Op.40-1「軍隊」
9)山田 耕筰作曲/FCM編曲:からたちの花
10)久石 譲作曲/松原 幸広編曲:風のとおり道/「となりのトトロ」より

 ヴィヴァルディが生きていた時代(1678-1741。ちなみにバッハも同時代の人1685-1750だ)に弦楽四重奏という演奏形体はまだなかった。ヴァイオリン族の4つの楽器だけで、ひとつの音楽をつくりあげる演奏技術も未熟だったし、楽器の性能もそこまでは到達していなかったからだ。
 弦楽四重奏というジャンルを発明したのがハイドン(1732-1809)だ。交響曲を100曲以上(!)もつくったハイドンはしばしば「交響曲の父」と呼ばれるが、「弦楽四重奏の父」でもあって、68曲残している。
 ハイドンの弦楽四重奏曲に大きな刺激を受けたのがモーツァルト(1756-1791)で、23曲もつくって、このジャンルを発展させた(これをベートーヴェンが受け継ぎ、芸術的価値を高めた)。そのうち、第14番から19番はハイドンに献呈されたので、「ハイドン・セット」と呼ばれている。このときモーツァルトは弦楽四重奏の父という意味を込めて「パパ・ハイドン」という語を使った。

 この日演奏された第78番には後世の人によって「日の出」という標題が付けられている。第1楽章の冒頭が、日の出を連想させるからだ。
 朝まだき群青色の空を想わせるチェロの低い響きの中から第1ヴァイオリンの優雅で、ほの明るい旋律が立ち上がってくると、なるほど「日の出」だな、と納得させられる。本番前、チェロの三浦さんが中心になって、この部分を集中的に練習していたことが印象に残っている。

 ハイドンは今年、没後200年にあたっている。そのせいか、サイモン・ラトルも盛んにハイドンの交響曲を録音するなど、再評価が進んでいる。
 実は私はハイドンをまったく聴いてこなかった(そもそも古典派を私はほとんど聴いていない)のだけれど、この日、おのれの不明を大いに恥じ、ハイドンをちゃんと聴こうと決意した。
 メロディメーカー(印象的な旋律をつくるタイプの作曲家)といえば、モーツァルトやチャイコフスキーを思い浮かべるが、ハイドンの名を挙げる人はそう多くない。ところが、ハイドンは実にいいメロディを書いている。
 弦楽四重奏の傑作といえば、ベートーヴェンの後期の作品が挙げられる。私もそう思って聴いてきた。そして、ハイドンは「弦楽四重奏の入門編」と心のどこかで思いこんできた。
 だが、決してそうではない。この日のラトゥール・カルテットの演奏を聴いて、ハイドンを入門用などという扱いにするのはとんでもない間違いだ、と思った。

 長谷川恭一さん(盛岡市在住)がこの日のために弦楽四重奏版に改作してくださった「ラブ・レター」(朗読劇『ラブ・レター』のための音楽)は、切なさと甘美さに溢れた曲で、会場での評判も高かった。

 ラトゥール・カルテットは音がきれいだ。これは特筆していいと思う。付け加えると、山口あういさんと三浦祥子さんの使用楽器は、盛岡の松本伸弦楽器工房の作品である。
 ヴィオラの熊谷啓幸さんはプロとして活躍してもおかしくない実力者だし、セカンド・ヴァイオリンに馬場雅美さんが加入したことも心強い。安定感と奥行きのある演奏になったのは、馬場さんのおかげだろう。

 終演後、「音楽でこんなに感動したのは初めて」、「初めて聴いた弦楽四重奏の響きに魅せられた」、「弦楽四重奏のファンだが、なかなかコンサートがないので、またぜひやってほしい」、「長谷川恭一さんの曲を初めて聴いて感動した。また聴きたい」などなどたくさんの好意的な感想が寄せられた。このコンサートを企画した責任者として、こんなに嬉しいことはない。
 実はこのグループ名の名前を考えたのは私なので、いいスタートを切ることができたことを自分のことのように喜んでいる。

 ちなみにラトゥールは、バロック時代の高名な画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥールからいただいた。ラ・トゥールは長く忘れられていたが、20世紀に入ってから再評価され、21世紀になってから一大ブームを巻き起こし、日本でも2005年に大きな展覧会が開かれた(第95回参照)。

 岩手町立石神の丘美術館では、ラトゥール・カルテットの演奏会を年に少なくとも1回(場合によって2回)は定期的に開いていこうと思っている。今後の活躍を期待していただきたい。

ラトゥール・カルテット
山口あうい(ヴァイオリン)
京都市出身。愛知県立芸術大学卒業。桑原賞受賞。同大学院音楽研究科修了。日本室内楽アカデミーオーディション合格。
ウィーン国立音楽大学に留学。
2006年〜都留音楽祭セミナーにてバロックヴァイオリンを受講。
堀内ハルキ、亀田美佐子、故 阿部靖、田渕洋子、澤和樹、進藤義武、フランツ・サモヒル、渡邊慶子、バロックアンサンブルを岡田龍之介の各氏に師事。現在、弦楽合奏団バディヌリに所属。ヴァイオリン教室を主宰。
 
馬場雅美(ヴァイオリン)
武蔵野音楽大学卒業。元東京フィルハーモニー交響楽団ヴァイオリン奏者。結婚を機に岩手に移住。
長谷川孝一、比留間和夫、日高毅、ルイ・グレーラーの各氏に師事。
現在、矢巾町田園室内合奏団にてヴァイオリン講師。盛岡にてヴァイオリン教室を主宰。
 
熊谷啓幸(ヴィオラ)
4歳からヴァイオリンを始め、弘前大学にてヴィオラも始める。これまでにヴァイオリンを松見和子、村山弘、長谷部雅子の各氏に師事。アンサンブルを村山弘、三戸正秀、藤沢俊樹の各氏に師事。
現在、弦楽合奏団バディヌリに所属。また県内外のオーケストラにも参加。盛岡と弘前にてヴァイオリン教室を主宰。
 
三浦祥子(チェロ)
盛岡市出身。5歳からピアノを盛岡音楽院で学ぶ。盛岡白百合学園高等学校在学中よりチェロを黒沼俊夫、井上頼豊の各氏に師事。愛知県立芸術大学器楽科在学中より天野武子氏に師事。卒業演奏会出演後、岩手大学教育学部付属中学校にて非常勤講師を務める。
現在、音楽教室を主宰。県内各地で演奏活動を行っている。

◆このごろの斎藤純

ようやく自分の時間をとれるようになった。サイクリングやツーリングに出かけよう、と思ったら梅雨入り。ついてません。

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