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◆第206回 一ノ関ジャズ喫茶ベイシー40周年記念(24.August.2009)

『LIVE AT BASIE PROJECT』ハンク・ジョーンズ・トリオ・ライヴ

日本が世界に誇るジャズ喫茶ベイシーが今年40周年を迎えた。その記念に、生きるジャズ史と言うべき巨匠ハンク・ジョーンズのライヴ・レコーディングが8月14日と15日の二日間にわたって行なわれた。

ベイシーの菅原正二氏と元ソニーミュージックの名プロデューサー伊藤八十八氏のプロデュースによるこのレコーディングは、最高の音が永久に残るクリスタルディスクとなって世界リリースされる。

私は二日目(15日)のライヴに行った。ベイシーの前には長蛇の列ができ、「入りきらないのでは」と心配された。そこはベイシーの客、ぎゅうぎゅう詰めでも文句ひとつ出なかった。
ま、あれだけクォリティの高い演奏を目の当たりにすれば、暑かろうが立ち見だろうが、すべてオーケーという気にもなろうというものだ。
ハンク・ジョーンズのピアノは音色が優しい。強い音圧でもって圧倒するのではなく、その深く暖かな音色で包み込むような演奏をする。このごろの硬質なピアノの音を聴き慣れた耳には、何か特別な魔法でも使っているように感じられた。
ハンクが奏でるフレーズがまた「粋」だった。音の使い方が洗練を極めている。無駄な音がひとつもない、と言っていい。だからといって、決して音数が少ないわけではない。
洗練が過ぎるとスリリングさが消えてしまいがちだが、さすがハンクに限ってはそんなこともない。畳みかけるようなフレーズではなくても、スリリングなジャズを奏でることはできるのである。
ぞくぞくしながら、じんわりと涙が込み上げてきて、胸が熱くなる。そんな演奏だった。

ベースもドラムスも若手ながら、いかにもハンクが好きそうなオーソドックスな演奏だった。ことにリー・ピアソンは切れ味が鋭く、手数が多いのに少しもうるさくないという理想的なドラマーで、私は感銘を受けた。

プログラムは下記の通り。
1st SET
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
TAKE THE A TRAIN 
SUMMERTIME 
NICA’S DREAM
BLACK ORPHEUS
HAVE YOU MET MISS JONES?
THE VERY THOUGHT OF YOU 
SPEAK LOW         
BLUE MINOR
MERCY,MERCY,MERCY
2st SET
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
COTTONTAIL
AUTUMN LEAVES 
ROAD SONG
DARN THAT DREAM 
CUTE    
COOL  STRUTTION’
LAMENT
ENCORE
−TWISTED BLUES
−MOOSE THE MOOCH
−ALONE TOGETHER 
−BLUE MONK

なお、クリスタル・ディスクについては、クリスタル・ディスクのホームページをご覧いただきたい。
このライヴが発売されたら、ベイシーの名がまた高まるに違いない。歴史的と言っていい場面に立ち会うことができた。

〈メンバーのプロフィール〉
ハンク・ジョーンズ Hank Jones (ピアノ)
今年91歳を迎える鉄人ハンク・ジョーンズは、1918年7月31日ミシシッピ州ヴィックスバークの生まれ(育ったのはミシガン州ポンティアック)。有名なジョーンズ3兄弟の長兄(弟はトランペット奏者のサド、ドラマーのエルヴィンは末弟。いずれも故人)。
十代の頃から地元で演奏活動を始めた。トミー・フラナガン、バリー・ハリス、サー・ローランド・ハナに代表されるデトロイト派ピアニストの創始者でもある。ホット・リップス・ペイジに認められ、44年にニューヨークに居を移す。コールマン・ホーキンスやビリー・エクスタイン等と共演するかたわら、当時発展しつつあったビバップの要素を吸収してゆく。47年からJATP(Jazz at the Philharmonic)に参加。48年〜53年はエラ・フィッツジェラルドの伴奏者を務めたり、チャーリー・パーカーと共演するようになる。50年代になるとベニー・グッドマン、レスター・ヤング、キャノンボール・アダレイ等と共演。59年から17年間はCBSのスタッフ・ミュージシャンとしてラジオやTV番組の音楽に携わりながら、活動を展開。75年に結成したザ・グレイト・ジャズ・トリオをきっかけに再びジャズの第一線へと躍り出て、以降は名脇役から立派な主役を務める作品まで数え切れないほど様々なアルバムに参加している。
その優雅で流麗な演奏スタイルと、暗記しているスタンダード曲が1,000を超えることから、「ミスター・スタンダード」と尊敬の念を込めて呼ばれている。
90年代のパナソニックのCMで、「ヤルモンダ!」とにっこり笑って「What’s New」を演奏していたシーンは記憶に新しい。
2008年、米国芸術文化の最高栄誉National Medal of Artsを受賞、また2009年、グラミー Lifetime Achievement Award 受賞に輝く。
デイヴィッド・ウォン David Wong (ベース)
ニューヨークで生まれ育った若干26歳のベーシスト。音楽とアートで有名なラガーディア高校を卒業し、クラシック音楽の名門ジュリアードを2004年に卒業。その後、エリック・リード・トリオやヒース・ブラザースに参加し、現在はロイ・ヘインズのメンバーとして活躍中であるが、その正確なベース・ワークとその人柄から多くのファンを獲得しつつある。ベースのロン・カーターの推挙により、ハンク・ジョーンズのグレイト・ジャズ・トリオの一員に抜擢された。

リー・ピアソン Lee Pearson (ドラムス)
1981年1月4日、メリーランド生まれ。バルチモアのハイスクールから、マンハッタン音楽院を卒業した新進気鋭のドラマー。デューク・エリントン楽団やロイ・エアーズ・バンドの一員としてツアーに参加し、ミュージシャンとしての技量研鑽を重ねる。現在はニューヨークを中心に活躍中である。サックスのケニー・ギャレット・グループに在籍したこともあるが、そのスピード感あふれるシャープなプレイで注目を集めている。

レイモンド・マックモーリン Raymond McMorrin (テナー・サックス)
79年米国コネチカット州生まれ。11歳の時にテナー・サックスを吹き始める。99年にはハートフォード音楽院でアルト・サックスの大物ジャッキー・マクリーンに師事してサックス奏法を学ぶ。ピアノのホレス・シルヴァーやトロンボーンのスティーヴ・デイヴィス等とも共演している期待の新星である。最近ではティファニーのレコーディングにも参加して、その色気のあるサウンドと自由奔放なフレージングで聴く人の心を魅了している。

◆このごろの斎藤純

○前回予告した八幡平ヒルクライム(八幡平アスピーテラインをロードバイクで上がるサイクリング)に参加した。途中で何度か休憩をはさみつつ、どうにかこうにか自力で頂上の駐車場まで上がることができた。自分を少々見直した。

ハイドン:「十字架上の七つの言葉」を聴きながら