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◆第208回 平成21年度 文化庁「舞台芸術の魅力発見事業」(28.September.2009)

東京都交響楽団コンサート
2009年9月19日 盛岡市民文化ホール大ホール


 実に爽快なコンサートだった。さっそく、プログラムをご覧いただきたい。

第一部
チャイコフスキー:歌劇《エフゲニー・オネーギン》より“ポロネーズ”
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 作品30
 
第二部
ビゼー:「アルルの女」第2組曲
ラヴェル:ボレロ
 
ピアノ独奏:小山実稚恵
小泉和裕指揮 東京都交響楽団

 第一部はロシアもの、第二部はスペインもの。不思議なプログラムなのだが、ラフマニノフは交響曲と協奏曲をいっきにやってしまうような曲だから、第二部では力まない曲を組んだのかもしれない。

 小山さんはロシアものが実にいい。ご本人も「私は雪国で育って、雪を踏む音や感触が体にしみこんでいる」からロシアものを弾くときには、それがよみがえってくるのだといつかおっしゃっていた。
 ラフマニノフは、いかにもロシアの風土を感じさせる土俗性と現代音楽のモダニティという二面性を持った作曲家だ。その二面性をみごとに融合させた傑作のひとつが、ピアノ協奏曲第3番だ。
 この曲は1908年につくられ、翌年、本人のピアノ、ウォルター・ダムロッシュ指揮ニューヨーク交響楽団によって初演された(1909年から10年にわたるアメリカ演奏旅行中に書かれた、と音楽之友社の『新音楽辞典』には書かれている)。その後、ラフマニノフはアメリカに亡命し、アメリカの地で没する。

 名ピアニストだった本人さえも弾くのを躊躇したほどの難曲とのことだが、小山さんはたっぷりと歌いつつ、超絶技巧でも聴衆を唸らせ、オーケストラと一体になって大団円へとなだれこむ。いやあ、カッコよかった(軽薄ですみません)。
 第一部終了後に岩手日報の一戸学芸部長(この方は大変なクラシック通!)とロビーで会ったら、一戸さんも「カッコよかった!」とにっこり。やっぱり、カッコいい演奏ってあるよなあ、と思った。

 第二部ではカッコいい演奏から楽しい演奏へ。
 ビゼーでサックスが使われていたので、ビゼーって新しい作曲家なんだなあ、と改めて認識する。せっかくサックスがいるのだから(というわけでもないのだろうが)、これまたサックスが活躍するラヴェルをもってきたのはわかる。
 ビゼーはよく知っているメロディばかりで、最後は絢爛豪華に終わるから、カタルシス全開。ラヴェルの『ボレロ』はスペイン風の曲想を持つ曲で、もうこれも最後は盛り上がるだけ盛り上げるから、これまたカタルシス全開(笑)。『ボレロ』はいいですね。

 実は『ボレロ』を生で聴くのは初めてだ。長年の夢がかなった。
 終演後、楽屋前で第一ヴァイオリンの篠原智子さん、田口美里さんと再会。お二人とも小沢征爾&ロストロポーヴィチ・コンサートキャラバンで岩手を訪れて以来、何度もいらしていて、昨秋には弦楽合奏団バディヌリの定期演奏会に篠原さんらを迎えて『四季』を演奏している。
 篠原さんは「前から3番目に座っていたでしょう。わかったわよ」ですと。
 はい、実はいただいたチケットだったので、そういう高価な席でした(ただし、音楽を聴くにはこの席はあまりよくない。音が頭上を通過していくのである)。
 小山実稚恵さんとも再会できた。オーケストラ(もっと言うと、ホルン)が間違いませんでしたか、と聴くと「あそこは間違いやすいところなのよ」と苦笑なさっていた。

◆このごろの斎藤純

○いやあ、一年の経つのが早い。もう文士劇の稽古がはじまる時期になってしまった。溜息ばかりついてもしようがないのだが、やっぱりついてしまいますよね、溜息。
○ちなみに今年の演目は『源義経』。脚本家道又努氏によるオリジナルな物語だ。私は弁慶を演じる。こんな痩せっぽちが弁慶だなんて妙な話になりそうだ。

マーラー:交響曲第10番を聴きながら