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◆第209回 ふるさとを知る写真展(12.October.2009)

酒田市土門拳文化賞奨励賞受賞記念
『田村淳一郎写真展 -昭和の農村-』
岩手町立石神の丘美術館 2009年9月19日(土)〜10月18日(日)


 この4月から岩手町立石神の丘美術館の芸術監督をつとめている。岩手町沼宮内は私の母のふるさとなので、子どもの頃から親しみのある土地だ。
 だから、この町が急速に変わってきた(そして、さらに変わりつつある)ことも知っている。
 今、岩手町の人々は自分たちの歩みを振り返ることが大切だと思いはじめている。それは埋もれている町の歴史の掘り起こしや、ボランティア・ガイドの育成など具体的な動きとしてあらわれてきている。

 石神の丘美術館で開催中の『田村淳一郎写真展』は、そういった動きに呼応するもののひとつだ。
 岩手町沼宮内在住のアマチュアカメラマン田村淳一郎さん(1937年一戸町生まれ)は、中学生のころから写真に興味を持ち、10代後半から本格的に写真をはじめ専門誌などに出品した。その後、写真から遠ざかっていたが、60歳を過ぎて再び風景や自然を被写体に写真を撮り続けていらっしゃる。

 平成20年、30枚からなる組写真「昭和の農村」が第14回酒田市土門拳文化賞(山形県酒田市出身で世界的な写真家・土門拳の功績を記念し、写真文化・写真振興を目的に平成6年に創設。アマチュア写真家の組写真を対象としたコンクール)奨励賞を受賞。この作品は、田村さんの出身地の一戸町のほか、葛巻町、岩手町で子どもを中心とした農村の生活を撮影したものだ。

 なお、本展覧会では、受賞作「昭和の農村」のほか、昭和を代表する写真家・土門拳の作品も併せて紹介している。この機会にぜひご覧いただきたい。

 人々が田畑で働く、当時の日常的な、ごくありふれた姿を記録しておこうとレンズを向けた田村さんの感性が素晴らしいと思う。当時、それらに注意を払う人はいなかったと思う(現在でも地元の人はそうだ)。さらに、それを撮影して残そうとした人は決して多くない。カメラがまだ高級品で、とても珍しい時代のことだ。

 この展覧会を企画中、「これは子どものころの私です」とか「これはぼくのお祖父さんです」という具合に、写っている人物の特定ができればいいな、と思っていたのだが、実際に特定できる写真も出てきた。

 写真展は連日、たくさんの方にご覧いただいている。特徴的なのは館内にいる滞館時間が長いことだ。当時を懐かしんで思い出を語り合いながら、中には涙を流していく方もいらっしゃる。
 また、孫に昔話をしている光景にも出会う。一枚の写真をきっかけに、世代間の結びつきが生まれていると言っていい。

 ロビーギャラリーで同時開催中の「岩手町の記憶コレクション」も好評だ。これは岩手町のみなさんから提供していただいた昔の写真を展示しているもので、「こういう写真ならうちにもあるよ」と持ってきてくださる方も増えている。

 美術館に限らず、文化施設は住民と一緒につくりあげていくものだと私は思っているので、芸術監督としてこの展覧会はいろいろな意味で嬉しい。

◆このごろの斎藤純

○山形市にある東北芸術工科大学大学大学院長で、福島県立博物館館長でもある赤坂憲雄さんにお会いしてきた。石神の丘美術館の活動がいわゆる「美術館」の枠に収まらず、博物館や音楽ホールとして機能していることについて「今後、美術館と博物館の垣根はますます低くなるはず」だから、決して間違った方向ではないと励ましていただいた。

ヒルデガルド・フォン・ビンゲンを聴きながら