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◆第220回 タルカス(EL&P)のオーケストラ版を聴く!(22.March.2010)

 今となっては、EL&Pというバンドを知らない世代のほうが、おそらく多いのではないだろうか。これは1970年代のロックシーンを席巻したプログレッシブ・ロックバンドだ。メンバーはキース・エマーソン(キーボード)、グレッグ・レイク(ギター、ベース)、カール・パーマー(ドラムス)。わずか3人だが、アルバムでは多重録音を駆使し、重厚なサウンドで我々を圧倒した。

 当時はイエス、ピンクフロイド、キングクリムゾンなど演奏技術の面でも和声などの面でも高度なバンドが台頭し、プログレッシブ・ロックブームを巻き起こした。クラシックをロックにひき寄せたという点も明記しておいていいだろう。

 ただ、私はそのブームにはあまりついていけなかった。すでにジャズを聴きだしていたからだ。今、思うと、あのころから私は過剰なエレクトリック・サウンドよりも、アコースティックなサウンドを好む傾向が定まっていたようだ。

 それはともかく、プログレッシブ・ロックの代表作といっていい「タルカス」を、作曲家の吉松隆がオーケストラ用にアレンジ(吉松はリミックスと称している)した。初演を聴きに行ってきた。

新・音楽の未来遺産
〜New Classic Remix〜 Vol.1 Rock & Bugaku
2010年3月14日(日)午後3時開演
東京オペラシティ・コンサートホール
監修:吉松 隆
指揮:藤岡 幸夫
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
ピアノ:中野 翔太
[1]吉松 隆/アトム・ハーツ・クラブ組曲第1番
[2]ドヴォルザーク(吉松 隆:編)/アメリカ Remix<初演>
[3]黛 敏郎/BUGAKU(1962)
[4]キース・エマーソン(吉松 隆:編)/タルカス<初演>

 
 吉松隆は現代の作曲家だが、難解な現代音楽はつくらない。私は吉松隆のギター作品や室内楽作品が好きでよく聴いている。このコンサートはそんな吉松隆のひとつの区切りになるようなコンサートだったと思う。

[1]は弦楽四重奏のオリジナルを弦楽オーケストラ用に編曲した作品。東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターをつとめる荒井英治は、弦楽四重奏版をCD化したモルゴーア・カルテットのメンバーでもあるから、この作品とは縁が深い。

[2]もオリジナルは弦楽四重奏(定番中の定番で、弦楽四重奏のコンサートといえばこの曲かシューベルトの「死と乙女」と相場が決まっていて、やや辟易させられる)。吉松隆によるピアノとオーケストラのためのアレンジは、決してピアノ協奏曲ではなく、ピアノもオーケストラも対等な関係で音楽が進む。本コンサート全4曲のうち、この曲はコンサート・レパートリーとして認知されていくような気がした。

[3]は、もともとバレエ曲なのだそうだ。笙や篳篥などで奏でられる雅楽の響きを、ヴァイオリンなどの西洋楽器で演奏させるという難曲だ。これは藤岡幸夫の指揮が光る名演だった。

[4]は大熱演。もっと吉松隆の世界にひきこんだ世界になっているものと予想していたのだが、これは外れて、ほぼ原曲通りだった。「あの旋律をあの楽器に担当させるのか」という驚きもあり、楽しく聴けた。指揮者とオーケストラがこれほど一体になった演奏もそうあるものでない。
 が、果たしてオーケストラで聴く意味があるのかどうか。どちらを選ぶといわれたら、私は迷わずにオリジナルをとるだろう。

 驚いたのは、客席の7割が埋まっていたことだ。この手のコンサートにしては、客の入りはいいほうだったのではないだろうか。なにしろクラシック・ファンはまず相手にしないし、ロック・ファンも「けっ、クラシック版なんて」と毛嫌いする。つまり、どっちの世界にも聴かず嫌いが多い。

 この日の聴衆はいい選択をし、そのおかげで心地よい喜びを得られたといっていい。

◆このごろの斎藤純

〇この3月で、盛岡市行財政構造改革推進委員と岩手県立美術館運営協議委員を任期満了で終えた。こういう役職で私は手抜きをしないから、神経と時間をかなり使った。肩の荷を下ろし、解放感に浸っている。

イン・テューン/シンガーズ・アンリミテッドを聴きながら