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◆ 第235回 脂の乗りきった弦の響き(1.November.2010)

弦楽合奏団バディヌリ 第14回定期公演
2010年10月16日(金)午後7時開演。
岩手県民会館大ホール

 身びいきと思われるかもしれないが、私が最も楽しみにしているのが弦楽合奏団バディヌリ(以下、バディヌリと略す)の定期公演だ。
  これまでに何度もこの連載で紹介してきたように、バディヌリは指揮者を置かない合奏団だ。弦楽四重奏団くらいの規模なら、指揮者がいなくてもさほど支障はないもののバディヌリのように20人もの演奏者がいる場合は、指揮者がいるほうがまとまりやすいし、おそらく演奏者にとっても楽だと思う。指揮者がいない場合、各自の自主性と協調性がより一層重要になる。つまり、演奏者の負担が増える。もっとも、それが指揮者を置かないアンサンブルの醍醐味でもある。
  指揮者を置かないことを「負担」と思うか、「醍醐味」と受け取るか。当然、バディヌリのメンバーは醍醐味と受け取っているわけだ。そして、私たち聴衆もそれを楽しみにしている。
  では、プログラムをご覧ください。

〔1〕バルトーク:ルーマニア民族舞踊組曲
〔2〕マルチェロ:オーボエ協奏曲
〔3〕フィンジ:弦楽のためのロマンス
〔4〕バーバー:弦楽のためのアダージョ
〔5〕バッハ:管弦楽組曲第3番
 〔1〕のバルトークは編曲もの(オリジナルはピアノ曲)。こういう民族色の強い音楽をバディヌリがやると乗りがよくて、とてもおもしろい。ただ、これは編曲がおとなしいせいかもしれないが、もっと土くさい演奏でもよかった。
  ゲストに迎えたオーボエの戸田智子さん(東京藝術大学別科)との共演による〔2〕は、第1楽章が始まったとき、「こんなにゆっくりで大丈夫だろうか」というテンポだったが、最後までゆるまず、堂々たる名演だった。これはこれで聴き応えがあった反面、第2楽章のアダージョが、ちょっとかすんでしまった。
  バディヌリにとって〔3〕はお手のもの。〔4〕も聴き応えがあった。
 〔2〕の名演に加えて、念願の管楽器を迎えての〔5〕の出来が出色だった。管弦楽組曲といえば今日ではバッハの作品を示すほど、バッハにとっても我々にとっても大切な曲だ。一般には第2楽章が「G線上のアリア」としてよく知られている。確かに素晴らしいメロディだが、この曲に限らず、私は一部の楽章だけを演奏することがあまり好きではない。この曲も、ひとつの組曲の中の第2楽章として聴くと、その重要度が明確になる。バディヌリの演奏も乗っていたし、トランペットの牛腸和彦、佐々木駿さんも素晴らしかった。
 アンコールにティンパニを交えた「アンダンテ・フェスティーヴォ」が演奏された。この曲はティンパニ抜きで演奏されることが多いが(シベリウス自身によってティンバニ抜きで演奏してもいい、と指示されている)、おしまいの4小節にティンパニが入るだけで、ずっとドラマチックになる。

 バディヌリのコンサートマスター寺崎巌さんは、岩手県芸術祭選奨を受賞し、これからますます活躍が楽しみな音楽家だ。そして、バディヌリは来年、結成30周年を迎える。
◆このごろの斎藤純

○ 「もりおか映画祭2010」にお越しいただき、ありがとうございました。来年もさらにパワーアップし、映画の力で盛岡をもっと元気な街にしていきたいと思っています。どうぞ、お楽しみに。

エネスコ:弦楽四重奏曲を聴きながら