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◆ 第266回  脇役のいないロック・バンド (20.February.2012)

 テデスキ・トラックス・バンド来日公演
2012年2月9日 渋谷公会堂(東京都) 午後7時開演

 私が十代半ばから二十代初めのころまで熱心に聴いていたのは、オールマン・ブラザーズ・バンドなどのサザン・ロック、マディ・ウォーターズやリトル・ウォルターなどのブルーズ、オーティス・レディングらのソウル・ミュージックだった。
 かつてLPレコードで持っていたそれらをCDで買い直し、今も聴いている。正確にいうと、最近になって、あのころのロックをまた熱心に聴いている。
 私はジャズやクラシックも同じくらいの比重で聴いているため、残念ながら新譜を聴く時間はまずない。例外はデレク・トラックス・バンドとスーザン・テデスキだった。

 デレク・トラックスは、かつて聴いていたオールマン・ブラザーズ・バンドのオリジナル・メンバーだったブッチ・トラックスの甥で、デレクという名はエリック・クラプトンの伝説的なバンド「デレク&ドミノス」に由来する。要するに、生まれたときからロック・ミュージシャンになる宿命を背負っていた。たいていの場合はその重すぎる「宿命」に潰されてしまうものだが、デレクはまっとうにその道を歩むことになる。
 私はデレクのギタープレイを新生オールマン・ブラザーズ・バンドのアルバムで聴いて以来、ファンになった。

 スーザン・テデスキを知ったのはインターネットの動画が最初だった。フェンダー・テレキャスターを弾いて、ブルーズを歌うテデスキの姿にまいった。そのときはスーザンとデレクが夫婦だということは知らなかった。

 それぞれ自身のバンドで活動していたデレクとスーザンが、ひとつのバンドに合体させ、CDを出したときはとても興奮した。そのCDにはDVDも付いていて、来日公演への期待も高まった。

 その期待を裏切らないコンサートだった。いや、裏切らないどころか、期待を遥かに超えるコンサートだった。

 では、メンバーを紹介しておこう。
デレク・トラックス(ギター)
スーザン・テデスキ(ヴォーカル、ギター)
オテイル・バーブリッジ(ベース)
コーフィ・バーブリッジ(キーボード、フルート)
タイラー・グリーンウェル(ドラムス)
J.J.ジョンソン(ドラムス)
マイク・マティソン(コーラス)
マーク・リヴァース(コーラス)
ケビ・ウィリアムス(サックス)
モーリス・ブラウン(トランペット)
ソンダース・サーモンス(トロンボーン)
*コーフィ・バーブリッジとマイク・マティソンはデレク・トラックス・バンド時代からのメンバー

 一人一人が名手で、曲ごとにそれぞれの聴かせどころが用意されている。それがこのバンドの凄いところで、決してデレクとスーザンだけのバンドではない。デレク自身、このバンドについて「誰一人として脇役がいない」と語ったそうだが、実際、そのとおりだ。
 このメンバーで、およそ2時間半、MCなしで次から次へと演奏を聴かせた。曲目は以下のとおり(インターネットの情報を元にしています)
1.エヴリバディズ・トーキン(ニルソンの曲で映画『真夜中のカーボーイ』の挿入歌)
2.カミン・ホーム(デラニー&ボニー)
3.デイズ・イズ・オールモスト・ゴーン
4.ローリン・アンド・タンブリン(ブルーズのスタンダードナンバーで、エリック・クラプトンもやっている)
5.ラーン・ハウ・トゥ・ラヴ
6.ウェイド・イン・ザ・ウォーター
7.スティーヴィー・グルーヴ
8.ダーリン・ビー・ホーム・スーン
9.ノーバディズ・フリー
10.ザット・ディド・イット(ボビー・ブルー・ブランド)
11.アップタイト(スティーヴィー・ワンダー)
12.バウンド・フォー・グローリー
〔アンコール〕
13.ミッドナイト・イン・ハーレム
14.ラヴ・ハズ・サムシング・エルス・トゥ・セイ

 彼らのオリジナル曲とカバー曲で構成されていることがわかる。もっとも、カバー曲もすっかり彼らのものになっていて、オリジナル曲といっても疑われないだろう。典型的なモータウン・サウンドの11の演奏が始まったときは驚いたが、後で調べてスティーヴィー・ワンダーの曲だと知った。こういう曲もカバーしてしまうところがこのバンドの懐の深さだろう。
インプロヴィゼイションの長い曲では、スタンリー・クラークやロギンス&メッシーナのライヴアルバムを連想させた。ブルーズをルーツにしたバンドであることに間違いはないが、それ以上にオール・アメリカン・サウンドなのだと思った。

 このバンドの懐の深さもさることながら、こういうバンドが多くの人に支持されるアメリカの音楽シーンの懐の深さも痛感させられた。

 2曲のアンコールを終えてステージから去るときに、スーザンはピックを何枚か客席にプレゼントしていた。さらに、客席からの求めに応じて、床にあったセットリストもプレゼントしていた。丁寧に手渡しをする姿が印象的だった(このセットリストはインターネットで見ることができた)。

◆このごろの斎藤純

○まわりでは風邪やインフルエンザにかかった人が多かったが、私はお茶ウガイと手洗いのおけがか、どうにか無事に一冬過ごすことができた。
○心なしか日が長くなってきたように感じる今日このごろ。早くロードバイクで遠くへ出かけたくてウズウズしている。

バッハ/管弦楽組曲を聴きながら