トップ > 目と耳のライディング > バックナンバーインデックス > 第274回



◆ 第274回  観るものの心を映す作品 (25.JUN.2012)

『長谷川誠展 白い森の足跡』
岩手町立石神の丘美術館 2012年4月28日〜6月10日

 私が芸術監督をつとめている岩手町立石神の丘美術館の展覧会(したがって、私が企画した展覧会でもある)だし、すでに終了しているので事後報告となってしまい恐縮だが、これはとてもユニークな展覧会だった。
 企画段階で私は長谷川さんに「企画展示室だけでなく、野外展示場も含め、美術館全体を自由に使ってください」とお伝えした。長谷川さんは巨木から型をとって制作する立体と、平面作品を両立している美術家なので、それを存分に発揮してもらいたいと思ってのことだった。

 長谷川さんはそれを実現してくれた。いや、それ以上のことを実現したといったほうが正しいだろう。
企画展示室はもちろん、ギャラリーロビー、野外展示場に作品が展示され、長谷川誠ワールドが展開された。さらに、長谷川さんと親交のある音楽家Parametoricaが、長谷川作品からインスパイアされた2曲の音楽(エレクトロニカ・ミュージック)を聴けるようにヘッドフォンを会場内に設置した。また、やはり長谷川さんと親交のあるサタデープレイヤーミーティングによるライヴも期間中に開催された。
 これらは若いころから音楽を「生きる糧」としてきた長谷川さんならではの企画だ。長谷川さんにとって音楽と美術の間をさえぎるものは何もない。

 白い画面の平面作品には森を描いたものと抽象画がある。前者は実際の風景ではなく、心象風景だそうだ。そうなると抽象画との距離があまりない。長谷川さんにとってはどちらも同じに違いない。 白い風景画だから冬の場面を連想しがちだが、観るたびにその印象が変わり、春の森に見えることもあった。白い絵は、観るものが自由に色をつけることができる。つまり、長谷川さんの作品は観るものの心を映す。
 この企画展で私はそのことを学んだ。

◆このごろの斎藤純
【東日本大震災復興朗読劇「12の贈り物」】
「七番目の方角」作・斎藤純/演出・東海林浩英
[日時]7月7日(土)14:00〜(開場30分前)
[会場]岩手アートサポートセンター風のスタジオ
[出演]東海林千秋/中山恭誉/橋本佳織/高橋真人/馬場葉子(ジャズピアニスト)
[料金]入場無料(会場受付にて岩手県の文化支援のための募金を募ります)
ギーガー:アルプス協奏曲を聴きながら