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◆ 第276回  魂に響き、揺さぶられた(23.JUL.2012)

中田佳代子フラメンコリサイタル2012
〜追憶〜
Reminiscencia de Cai
2012年7月8日(日)盛岡劇場メインホール 開演16:00
11日(水)渋谷区文化総合センター大和田さくらホール 開演19:30
13日(金)クレオ大阪東ホール 開演19:00
〈出演〉
中田佳代子
ラウル・ガルベス(歌)
マイ・フェルナンデス(歌)
パコ・レジェス(歌)
ニーニョ・デ・ラ・レオ(ギター)
大儀見元(パーカッション)
福田こうへい(唄)                      
主催 カヨコフラメンコスタジオ
助成 平成23年度スペイン舞踊MARUWA財団助成作品
後援 スペイン大使館、スペイン国営セルバンテスセンター東京、社団法人現代舞踊協会、ANIF日本フラメンコ協会、公益法人スペイン舞踊MARUWA財団
 スペイン在住の中田佳代子さんのフラメンコ公演があった。私は東京公演に足を運んだ。
一言。大変なものを見てしまった!
 私が中田さんのフラメンコを初めて見たのは4年くらい前だったと思うが、あのときよりさらに大きくなっている。これは、うまくなったとか成長したというような意味ではない。そもそも、成長したなどとおこがましいことは言えない。とにかく、大きくなった。
もともと、中田さんはおおらかさを感じさせる存在だった。今回はカディスから腕っこきの仲間たちをひきつれてきたステージとあって、一段とのびのび踊っているように感じられた。それが私の目には「中田さんがひとまわり大きくなった」と映った。
 特筆しておきたいことがある。
中田さんは岩手出身というアイデンティティを大切にしている方だ。スペインで成功し、スペインで活動しているにもかかわらず、いつも「岩手」を表に出している。
フラメンコを踊る以上、岩手というアイデンティティを捨てるという生き方もあるだろう。むしろ、そのほうが私は理解できる。理解できるが、「それは無理だろうな」と思わないではいられない。一方、岩手というアイデンティティを大切にしながら、本場でフラメンコを踊るということは私の理解を超えている。それは不可能だろうと思う。
ところが、その不可能を中田さんはステージで実現しているのだ。今回は東北民謡界のスターである福田こうへいさんの「南部追分」でフラメンコを踊った。
これがまたみごとだった。真剣勝負、いや、勝負は相手を負かすことが目的だから、この場合は違う。丁々発止の掛け合いというべきか。福田さんの唄と中田さんの踊りが、ステージ上でお互いにお互いを高めあっていく。
私は息をつめて、ステージを見つめていた。その瞬間、私には「フラメンコを観ている」という意識が消えていた。ふたりの間に張りつめる緊張感と太い太い絆に、客席の私は全身全霊がからめとられていた。
というのは、後になって思ったことで、あのときはただただ圧倒されて、息を詰めていた。私は確かに「ここではないどこか」へ連れ去られていた。魂が揺さぶられるというのはあんな状態を言うのだろうか。
 聞くところによると、ふるさと盛岡ではもちろん、あまり馴染みのない大阪でも熱狂的に迎えられたという。「本物」が持つ力とはそういうものだろう。
◆このごろの斎藤純
〇私は音楽書を読むのが好きだ。いい音楽は聴いてもちろん、読んでも面白い。学校で読まされる作曲家の伝記はつまらないが、世の中にはいい音楽書がたくさん出ている。先日読み終えた『ベートーヴェンの生涯』(青木やよひ著/平凡社新書)は、ベートーヴェンの真実の姿をあくまでも客観的な資料によって描こうという力作だ。読後感がとてもよかった。これだけのものが手軽な新書で読めることもありがたかった(この内容なら7,000円くらいの本でも不思議ではない)。
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第15番を聴きながら