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◆第5回 音楽を愛する喜び ( 27.august.2001)

●盛劇ライヴ第80回
 ジョン・コルトレーン・メモリアルバンド
 8月22日 盛岡劇場タウンホール
 1000円(自由席・お茶付き)小学生以下無料

 台風11号の被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。
 幸い盛岡市は大きな被害を受けずにすんだが、一時の雨の勢いは強かった。その雨の中、盛岡劇場タウンホールには100名もの聴衆が詰めかけ、ほぼ満席となった。ジョン・コルトレーン・メモリアルバンド(以下J.Cメモリアルバンドと略す)のライヴ・コンサートである。
 青山や新宿などのジャズスポットに何度か足を運んだことがある。かなり有名なミュージシャンのライヴ(もちろんCDも出している)でも数十人という光景が珍しくなかった。だから、この客の入りには正直驚いた。ついでながら、8月18日、陸前高田ジョニー盛岡店で行なわれた玉山秀之グループwithジョージ及川のライヴも満席で、何か岩手の底力を見せつけられたような思いがしたものだ。
 さて、J.Cメモリアルバンドだ。チラシに〈1984年結成。以来、17年、ジョン・コルトレーンへトリビュートしてまいりました。21世紀になってますますコルトレーンの音楽の真価が発揮されることと思っています〉とある。長寿バンドである。
 この日のプログラムを紹介しよう。

    第一部
         1.WISE ONE
         2.SOFTLY AS IN A MORNING SUN RISE
         3.LONNIE'S LAMENT
         4.AFRO BLUE
    第二部
         1.MY FAVORITE THINGS
         2.MILE’S MODE
         3.I WANT TO TALK ABOUT YOU
         4.IMPRESSIONS

   アンコール
         EVERY TIME WE SAY GOODBYE
         BESSIE’S BLUSE


 最初から直球で来た。「一曲目は肩慣らし」などという姑息な手を使わない。いやまあ、素晴らしく美しい演奏だった。これで聴衆の気持ちをきっちり掴んだと言っていい。後の流れもとてもよかった。
 リーダーでサックスの黒江俊さん、ピアノの鈴木牧子さん、ベースの下田耕平さん、ドラムスの戸塚孝徳さんの四人がつくる音楽の印象を言葉であらわすと「聡明、明晰、透明」となる。いずれにも「明」という漢字が入っている。リーダーならびにメンバーの個性ゆえだろう。ただし、J.Cメモリアルバンドの音楽にはコルトレーンが持つタールのような重いものが欠けていると指摘することはできる。もっとも、聡明、明晰、透明といった要素もコルトレーンの音楽から確かに受け取ることができるものだ。つまり、J.Cメモリアルバンドはコルトレーンの音楽のその部分を強調しているわけで、それがこのバンドの美点になっていると思う。
 メンバーには大変失礼な話だが、かつてこのバンドを聴く楽しみは、才能豊かなピアニストである鈴木牧子さんの演奏を聴くことにあった。今はバンドとしてのアンサンブルはもちろんのこと、それぞれの演奏に耳を傾ける楽しみが増えた。バンドも成長しているが、僕の聴き方も成長したのだろう。
 J.Cメモリアルバンドのライヴに横溢しているのは、音楽を愛することの喜びである。これを聴衆と一緒になって醸しだしている。この日のライヴで僕は、音楽を愛するということは、音楽に愛されることなのだと教わったような気がする。
 客席を埋めた聴衆の年齢層の幅が広いことも僕は嬉しかった。
 ひとつだけ要望がある。小学生以下無料というのは、子供連れのお父さんやお母さんのための配慮だと思うが、次回からは無料の枠を高校生まで上げられないだろうか。いい音楽と出会うチャンスなのだから、無理をしてでも扉を大きくあけていただきたいと思う。