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◆第12回 インサイド盛岡文士劇( 3.December.2001)

●盛岡文士劇
2001年11月24日(土)午後6時30分・25日(日)午後2時午後6時30分

 僕にとって文士劇出演は七回連続だが、これまでは本番直前に川崎市から駆けつけての出演だったため、ろくに稽古もせず、ほとんどぶっつけ本番でやってきた。したがって、本読み、立ち稽古、舞台稽古と積み重ねて仕上げたのは初めての経験だ。

 今年の演し物『幡随長兵衛』は、初めて脚本を担当した道又力氏の労作である。まず、台本を一読したときは、セリフの多さに呆然となった。僕が稽古に出ることができるというので、高橋克彦氏(幡随長兵衛)と並ぶ重要な役(水野十郎左衛門)を割り当てられてしまったのだ。台本は3度ほど修正が加えられ、僕のセリフは増えも減りもしなかったが、大幅に増えた人もいる。

 最もセリフが増えたのは大久保彦左衛門役のさいとうたかをさんだった。そのさいとうさんが長セリフをちゃんと覚えてこられたのには驚かされた。「セリフは新幹線のなかで覚えました」とのこと。さいとうさんは石鳥谷町に居を構え、東京と盛岡を行ったり来たりなさっていて、「墓所もこっちに買った」とおっしゃっている。奥様が盛岡ご出身という縁である。今回の舞台にはさいとうたかをさんの演出も随所に生かされている。正月に岩手放送で放送される舞台中継をご覧いただければ嬉しい。
 特筆しておくべきことがある。舞台は山口久美子さん(現代舞踊家、ダンススタジオ・リベルテ主宰)を中心とする華やかな踊りで幕をあける。その振り付けを担当された若泉徳志枝さんが「大勢で踊ったほうが賑やかでしょう」と、ご社中の方々のボランティア出演を申し出てくださった。盛岡文士劇はこのような有志の方々に支えられている。ありがたいことだ。

 ひとことだけ感想を述べる。
 個人的にはもう少し肩のこらない舞台のほうが文士劇には相応しいと思った。見応えのある舞台になったのは確かだが、今回はあまりにシリアスなドラマだった。

 ところで、毎年、チケットがすぐに完売して「手に入りにくい」と文士劇実行委員会に苦情が寄せられる。今年も発売後数時間で完売したと聞く。これに対して、上演回数を増やしてほしいとか、ホールを他の大きいところに移してはどうかという意見が出ていると聞く。
 盛岡文士劇は盛岡劇場(通称盛劇)ならではのものであり、他のホールでの公演は考えられない。また、出演者はボランティアで、仕事の合間を縫って(あるいはわざわざ休みを取り)参加している。これ以上の負担をかけるわけにはいかない。かく言う僕も執筆に支障をきたしたのだ(この場を借りて、迷惑をかけた編集者諸氏に謹んでお詫びしたい)。

 また、チケットがすぐに売り切れるのは確かだが、「誰かが買い占めている」などというのは単なる噂にすぎない。一人あたりの発売枚数が決められているのだ(窓口によって枚数は異なる)。実際、うちでは妻が中三の窓口に並んでチケットを買っている。ただ、抽選にするなどの工夫が必要なのも確かだろう。
 どうしても行きたいコンサートのチケットが手に入らなかったときなど、僕も悔しい思いをする。そんなとき、僕は「自分の分を見知らぬ人に譲ってやった」と思うことにしている。そして、僕の分もちゃんと楽しんでほしいと願うのである。