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◆第18回 盛岡発 手作り楽器コンサート( 26.February.2002)

●盛岡発 手作り楽器コンサート
 2002年2月8日 おでってホール(盛岡市プラザおでって)
 前売り1200円

 盛岡市内の楽器製作者がつくった手作り楽器によるコンサートに行ってきた。今回参加した楽器製作者は、ギターの水原洋さん、ヴァイオリンの松本伸さん、マンドリンの田鎖賢彦さんだ。水原さんはご自身が製作したギターを自ら演奏し、ヴァイオリンは弦楽合奏団バディヌリの山口あういさん、マンドリンは盛岡市民マンドリンクラブの千葉仁さんが演奏した。
 また、協同組合岩手木工センターの製作による小型琴「和音(かずね)」の演奏も特別に行なわれた。
 曲目は以下の通り。

第一部
  〈クラシックギター〉
M.ジュリアーニ:ディルティメント作品106より第1・3・4番/水原洋
  〈ヴァイオリン〉
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタBWV1001より
adagio
fuga−allegro
/山口あうい
  〈マンドリン〉
G.ペッティーネ:ケンタッキーの我が家
中野二郎:春が来た変奏曲
/千葉仁
  〈和音〉
滝廉太郎:荒城の月
不詳:さくら
八橋検校:六段の調
/柴田早苗、佐藤美穂子、篠村愛子、船場秀子、猪久保真紀、藤原紀子、水原月童(尺八)
第二部
  A.ヴィヴァルディ:コンチェルト ニ長調 RV−93
allegro−largo−allegro
/千葉仁、水原洋
G.F.ヘンデル:ソナタ イ短調 作品1−4
larghetto−allegro−adagio−allegro
/山口あうい、水原洋
  O.レスピーギ:シチリアーノ
オペラ「魔笛」より「私は鳥刺し」
/山口あうい、千葉仁
  長谷川恭一:組曲〈ノスタルジア〉よりetude
      朗読劇〈街の眺め〉よりintermezzo
      映画〈千と千尋の神隠し〉より
               いつでも何度でも
/水原洋、千葉仁、山口あうい

 このコンサートはさまざまな面で興味深い内容だった。まず、ご覧のように、各楽器のソロとさまざまな組み合わせによるデュオ、そしてアンサンブルによる演奏を楽しむことができたこと。マンドリンとギター、あるいはヴァイオリンとギターという組み合わせはポピュラーだが、マンドリンとヴァイオリンとなると珍しい。さらにヴァイオリン、ギター、マンドリンとなると僕は初めて聴いた。「音楽の素人の発想だから、できたんだと思います」と、おっしゃるのは主催者の坂田裕一プラザおでって副館長だ。確かにそうかもしれない。僕だったら「そういう組み合わせの音楽はないから無理だ」と先入観に縛られてしまう。これが実現したのは盛岡市在住の作曲家長谷川恭一さんのご苦労のたまものだろう。それぞれの楽器の名手による演奏も聴き応えのあるものだった。マンドリンをちゃんと聴いたのは初めてだが、こんなに表現力の豊かな楽器だとは思わなかった。こんなふうに発見があるのも、この種のコンサートの楽しみのひとつだ。
 さらに、盛岡在住の楽器製作者たちの手になる楽器の音色そのものへの興味もあった。特に松本伸さん製作のヴァイオリンは、ニスを塗る前の白木の状態の楽器だったから、めったに聴けるものではない。それは素朴な、癖のない音だった。松本さんにうかがったところ、ニスを塗ると「音に艶が出ます」とのこと。このヴァイオリンは本コンサートで「魂入れ」がすみ(コーディネイターをつとめた寺崎巌さんの言葉)、発注者のもとへ納められる。
 プラザおでってのホールは残響がないため、マイクを使わない楽器の演奏には不向きなのだが、その分「飾りのない生の音」が聴けた。

 和音について触れておこう。これは中学校で和楽器の指導が取り入れられることから、琴古流宗家童門会尺八指南・岩手県三曲協会副会長の水原月童(実は水原洋さんのお父さんなんですね)さんと木工センターが協力して開発した新楽器で、第36回岩手県発明くふう展特賞&東北通商産業局長賞、第29回岩手県特産品コンクール銀賞、平成12年度全国地場産業振興技術優秀賞、全国商工会連合会長賞を受賞している。水原さんは「小型化すると弦長が短くなるため調律が難しくなるし、共鳴する箱が小さくなる分だけ音も小さくなる。それらをひとつひとつ解決していくうえで、たとえば松本伸さんに相談に行ったりして研究を重ねた。岩手産の木材で製作していただければ林業振興にも役立つのでは」と語っていらした。岩手からこのような新しい試みが発信されることはとても嬉しい。

 ところで、田鎖さんが「以前は理解されなくて、まだマンドリンつくっているのか」と言われたこともあるそうだが、地元盛岡ではまだ充分に理解されているとは言い難いようだ。東京、大阪、パリ、ニューヨーク、ロンドンなどで楽器製作者といえば、かなりステータスが高い職業だし、尊敬もされている。とかく岩手の人は地元の文化を軽視しがちなので、このようなイベントが果たす役割は小さくないだろう。プラザおでってでは手作り楽器コンサートを継続していく方針だという。大いに期待したい。

◆このごろの斎藤純

〇今月は月刊誌1本、季刊誌2本、その他(エッセイやコラム)3本の締切りが重なったうえに、二戸市の観光パンフレットにエッセイを書くという思いがけない依頼もあって、ただただ慌ただしい毎日だった。
〇そんななかで、岩手県立美術館の〈靉光と親交の画家立ち〉展に行った。これだけまとまった数の靉光を観るのは初めてだ。僕は日本画を興味深く観たが、村上善男氏(弘前大学教授、現代画家)はシュールリアリズムっぽい緻密な「デッサンがいい」とおっしゃっていた。これはもう一度観にいきたいと思っている。
〇まだ雪が残っているが、ぼちぼち花粉症の季節だ。僕は通常の人の三千倍という花粉症体質なので今からもう薬が欠かせない。

バッハ:ダブルコンチェルトBWV1043/ケネディ&ベルリンフィルハーモニッシェを聴きながら