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◆第20回 古くて新しい音楽を聴く(18.march.2002)

〇ベートーヴェン交響曲協奏曲全曲演奏プロジェクト 第1回
 都南文化会館キャラホール 大ホール
 2002年3月10日(日)  午後2時開演(無料)
 とても興味をひく試みがスタートしたので紹介したい。まず、首謀者(笑)である佐藤義仁さんからいただいたお知らせを転載する。

 県内の若手アマチュア奏者を集めて、9年がかりでベートーヴェンの交響曲、協奏曲全曲を演奏するというプロジェクト、「ベートーヴェンプロジェクト」を立ち上げました。
ちなみに私はこのプロジェクトの「企画・運営・指揮者」であります。
少しプロジェクトの説明をさせていただきます。
ベートーヴェンの交響曲全9曲は、1800年代に全て作曲されましたが、ベートーヴェン自身の字があまりにも汚かったため、自筆の楽譜の解読が困難な個所がいくつかあります。
当時の楽譜出版社「ブライトコップフ社」では、独自の解釈や、当時の演奏慣例にしたがって、ベートーヴェンの楽譜に手直しを加えて、出版を行いました。この楽譜は、今世紀まで長く使われます。様々な指揮者などが、それぞれの思いでさらにこの楽譜を変えて行ったため、本当にベートーヴェンが望んでいる音楽をあらわした楽譜なのか、前々から疑問視する声があがっていました。
近年、ベートーヴェンの研究が急速に進み、当時の自筆譜などと照らし合わせる事で、ベーレンライター社が「ベーレンライター版新全集」を出版(2000年に全曲出版完了)しました。この楽譜は、今や様々なオーケストラや指揮者によって、現在急速に普及しはじめています。
ですが、岩手ではこの楽譜による演奏を実際に生演奏で耳にする機会は「皆無」といっても過言ではありません(日本でもまだまだ珍しいのです)。そういったことから、自分たちでこれを演奏してみたい、いろんな人達に「新しい」ベートーヴェンを聴いてもらいたい、という思いでこのプロジェクトを結成しました。
指揮者(あ、恥ずかしながら私です・・・)、ソリスト(ピアノ、ヴァイオリン)を全てアマチュア奏者で行い、取り上げる曲は全てベートーヴェン、というこの連続演奏会は、全国的にも珍しい取り組みです。
〈演奏曲目〉
・劇音楽「エグモント」作品84 序曲
・ピアノ協奏曲第2番 作品19(ピアノ独奏 桜野杏里)
・交響曲第一番 作品21

 僕は楽譜による違いを聴き分ける耳は持っていないので詳しいことは書けないが、ブライトコップフ版とベーレンライター版では演奏家が「エッ」と驚くほどの違いが随所にあるのだそうだ。たとえば、スラーの有無なんて、我々から見ればさほど大したことがなさそうなものだが、だからといってベートーヴェンの音楽を勝手に改竄してもいいことにはならない。そういう意味も含めて、新旧の楽譜による「音楽の違い」をわかりやすくレクチャアする機会をつくっていただければ嬉しい。さて、当日の演奏である。
 交響曲第一番はモーツァルトのような雰囲気の典雅な曲で、ハ長調の明るさと素直さを持ち合わせている。ベートーヴェンというと、しかつめらしい曲ばかりを思い浮かべてしまうが、こういう華やかな曲もあるんですね。それをベートーヴェン・プロジェクト・オーケストラは、鋭く、切れ味のいい演奏で聴かせてくれた。何よりも、古い音楽に新しい命を与えるのだという意気込みが感じられ、それが集中力となって演奏のすみずみまで行き渡り、いい意味での緊張感を生んでいた。音楽に詳しい方々からも感想を聞いてみると、口々に「とてもレベルの高い演奏で聴き応えがあった」と賞賛していた。

 なお、パンフレットによると、ピアノ協奏曲第2番は、後に作曲されたピアノ協奏曲が第一番として先に出版されたため、出版順で2番になったが、実際は先に作曲されたもの。
 また、演奏はWTB合奏団、岩手県民オーケストラ、岩手大学管弦楽団、岩手医科大学管弦楽団などに属したり、あるいはフリーで活躍している若い演奏家たちからなるベートーヴェン・プロジェクト・オーケストラだ。このオーケストラは9年後、プロジェクトの終了と共に解散するという。現在中心となっている20代の団員も、そのときは30代になっているわけだ。
 ベートーヴェン・プロジェクトは一年一回の演奏だ。せめて半年に一回のペースで聴けたらどんなに素晴らしいだろう。しかし、無理は言うまい。しっかりした足取りで、常に我々に素晴らしい音楽を聴かせてくださるならば、何年かかろうとそれでいい。

◆このごろの斎藤純

〇岩手日報の新聞連載小説『銀輪の覇者』が終わった。1年間の予定だったが、3カ月ばかり伸びてしまった。400字詰め原稿用紙にして1000枚を超える長編小説になったわけで、もちろん今まで書いた小説のなかでは一番長い。これから時間をかけて手直しを入れ、秋くらいに出版できればと思っている。
〇日本推理作家協会の理事会と日本ペンクラブの環境委員会があり、東京に行ってきた。気温が20度近くもあり、暑くて驚いた。そして、すっかり花粉症にやられた。盛岡ではまださほどではないため、油断していた。
〇間隙を縫って上野の国立博物館に横山大観展を見に行ったら、なんと1時間半待ちの行列だったので諦めた。その足で国立西洋美術館のプラド美術館展に行き、さらに日比谷にまわって出光美術館で長谷川等伯の「松林図屏風展」を観てきた。水墨画が面白い。じきに雪舟展が始まる。これも楽しみだ。
〇今月末に「風と旅とオートバイ ツーリングシーン12章」(廣済堂文庫)が出る。表紙の写真はツーリング写真の草分け須藤英一氏、解説は仙台市在住の新田次郎賞作家熊谷達也氏だ。オートバイ乗り3人がよってたかってつくった本だが、解説にもあるようにオートバイに乗らない人に読んでいただきたい。

ベートーヴェン:エグモント序曲(弦楽四重奏版)/プロ・アルテ・アンティクワ・プラハを聴きながら