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◆第30回 ナベサダとジャズ(12.august.2002)

第312回 花巻市文化会館自主事業
渡辺貞夫グループwithンゴマ・マカンバ
2002年7月30日 花巻文化会館

 ナベサダさんを聴くために、BMW・R1150ロードスター(このページに出ている黒いオートバイです)で花巻文化会館に行った。知人たちから「オートバイで来たのか」と声をかけられる。「BMWではオートバイも作っているんだね」という質問も多い。実はBMW社は車よりもオートバイ生産のほうが先なのだ。「盛岡からどれくらいで?」とも訊かれる。僕は「15分」と答えて相手を驚かせる。もちろん、すぐに冗談だとわかるのだが。

 さて、ナベサダさんである。5月にも一関ベイシーでライヴを聴いたばかりだが、今回はパーカッション(打楽器)・グループのンゴマ・マカンバ(ガリアーノ・ネト、ルカ・ヘボルダゥン、ミック・トラヴォアーダ、ペト・モンテイロ、ダルー・ホジュールの5人で、彼らはリスボンを拠点にアフリカ、中近東、東洋、アフロ・ラテンの要素をミックスした独自の音楽をつくっている)との共演だ。
 もともとナベサダさんはチャーリー・パーカー・スタイルでスタートしているが、そのビバップというひとつの枠に収まりきらない音楽活動を行なってきた。たとえば、日本にボサ・ノヴァを紹介したのはナベサダさんだ。フュージョン・ブームの際には『カリフォルニア・シャワー』という大ヒット作もあった。
 僕がナベサダさんを聴きだしたのは中学の頃だ。日本放送だったかTBSラジオだったか忘れたが、『ナベサダとジャズ』(資生堂提供)という番組があり、それをよく聴いた。いや、ジャズなんてまったくわからないで、ただ聞き流していただけだった。
 友人から吉田拓郎のアルバムを借りたら、それに〈雪〉というボサ・ノヴァ調の曲が入っていて、そこでフルートを吹いていたのが何とナベサダさんだった。ジャズという何だかわけのわからない音楽をやっているナベサダさんとの距離がこれでいっきに縮まり、今日に至っている。そういう意味では吉田拓郎さんに感謝しなければなるまい。

 この日はナベサダさんのフルートもたくさん聴くことができて、僕は嬉しかった。ナベサダさんはすでに一流のジャズメンとして多忙をきわめているときに、レッスンの厳しさで恐れられていたクラシックのフルーティストに弟子入りしている。ナベサダさんはそういう音楽家なのだ。ジャズを学ぶために1960年代はじめに渡米し、バークレイ・スクール(バークレイ音楽大学ともいうが)に入学する。今でこそ珍しくもなんともないが、当時は大変なことだった。しかも、ナベサダさんは特待生だった。7年前にはバークレイ・スクールから名誉博士号を贈られている。
 話があちこちに飛ぶが、パーカッションのうねりに乗って進むナベサダ・サウンドを聴いているときは、それに全身全霊をゆだねていた。バーカッションの鼓動が何とも心地いい。しかも、胸に迫る。ともすると、パーカッションに対しては「派手で威勢がよく、景気のいい音」という印象だけを持ってしまうが、哀愁があるものだと初めて気がついた。パーカッションには旋律がない。ドカスカドカスカ、ドンドコドンドコ、チンチンチカチカと鳴り響く楽器なのに、何か切なさを誘う。これは今後の課題としたい。
 音楽的にも人間的にもふところの深いナベサダさんらしい、独自の世界を堪能した。渡辺貞夫グループのメンバーを紹介しておこう。
 渡辺貞夫(アルトサックス、ソプラノサックス、フルート)
 小野塚晃(キーボード)
 梶原順(ギター)
 納 浩一(ベース)
 トミー・キャンベル(ドラムス)
 スティーヴ・ソーントン(パーカッション)

 会場には小学生から上は限りなく(笑)幅広い年齢層の方が集まった。満席である。大槌町クイーンの佐々木賢一マスターが「これだけ幅広い年齢層にアピールできるのがナベサダさんの音楽なんだよね」とおっしゃっていた。
 そうそう、こんなふうに県内のジャズ関係者が顔を揃えるのも岩手のジャズ・コンサートのすごいところだと思う(今回はわざわざ山形市から老舗ジャズ喫茶オクテットのマスターもいらしていた)。また、花巻文化会館は毎年、大きなジャズのコンサートとクラシックのコンサートを各一回自主事業として開催している。ジャズのコンサートのときは、ジャズスポット(ジャズ喫茶)や岩手ジャズ愛好会(僕も会員だ)を巻き込んで展開する。これが、市民に(県民にと言ってもいいと思うが)に定着する要因となっている。こういう活動はもっと評価されていいと思う。道路をつくったり、得体の知れない公共施設をつくるのと違って、文化事業は目立たない。しかし、目立たないことにこそ大切なものが多く含まれている。花巻文化会館の活動に今後も期待したい。

 国道4号線を盛岡に帰りながら、水平に向かい合っている二本のシリンダーが股の下から伝えて来るR1150ロードスターの鼓動を楽しんだ。実に贅沢な夜だった。

◆このごろの斎藤純

〇暑いばかり暑くて、すっきりとしない夏だ。僕はオートバイ乗りのくせに夏があまり得意ではない。早く秋になればいいな、と思っていると東北の夏は短いから本当にすぐに秋になる。
〇久しぶりにさんさ踊りを見た。最後に見たのが1987年だから、実に15年振りだ。以前見たときは、太鼓の響きこそ心地よかったものの、祭りそのものはつまらないと思った。だが、今回は違った。まず、各地区の保存会による伝統さんさに感銘を受けた。ずいぶんいろんな振り付け(というのだろうか)があるものだ。たとえば乙部地区のさんさでは、独りの踊り手を輪踊りが囲む。膝を深く曲げるなど動きが大きい。
 そのような伝統さんさと共に、一般参加の自由振り付け型さんさ(と、僕は勝手に名前を付けた)も僕は楽しんだ。現代的な動きを巧みに取り入れた振り付けで、20代の連中はさすがにリズム感がいいから見ていて飽きない。「伝統を破壊する」と批判的な意見が多いと聞くが、伝統さんさは伝統さんさとしてきちんと保存する一方、こういう自由な踊りを積極的に認めていくことが、さんさ踊りの今後のためにも有効なのではないかと思う。
〇第6回みちのく国際ミステリー映画祭開催に向けて、具体的な活動が始まった。こういうご時世なので、過去最低の予算だった去年をさらに大きく下回る予算での開催となる。が、内容は濃くなっていく一方だ。今年は企画段階からの市民参加を呼びかけている。映画ファンだけの祭典ではなく、市民の祭典としてひろまっていくことが大切だと思う。これまでもミステリー作家によるトークショーやライヴ、演劇など映画からはみ出したイベントが特徴だったが、ますます変化していくに違いない。

渡辺貞夫/マイ・ディア・ライフを聴きながら